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手と手をつないで No.351

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福岡県太宰府市

もっと勉強したかった
柳井 美枝(やない よしえ)  (公社)福岡県人権研究所特命研究員

「何か書いてと言われることが一番怖いんです。だから誰にも会いたくないんです」
こう言っていたのは北九州市の自主「夜間学級」に通っていた60代のMさんです。Mさんは小学校に1日も通ったことがなく、「住所が書けるようになるのが私の夢です」と、はにかみながら語っていました。読み書きができないことは誰にも言えなかったそうです。

在日コリアン2世のTさんも小学校を卒業していません。独学で免許を取得し溶接工をしていたTさんは、4年前から「夜間学級」に通い、毎週楽しそうに勉強していました。そのTさんが数カ月の入院を経て一時退院された今年5月、学級にあいさつに来られたときのことです。目に涙を浮かべて「もっと勉強したかった」と言われたのです。その1カ月半後、Tさんは病のために亡くなられました。

9月8日は国連が定めた「国際識字デー」です。「識字」とは、文字を読み、書き、理解することです。ユネスコの調査によれば、世界では成人の6人に1人にあたる7億人以上の人が十分に読み書きできず、その3分の2は女性で、2億人以上の子どもや若者たちが学校に行けない状況だということです。このような識字問題は途上国だけの問題ではありません。

2010年の国勢調査によれば、MさんやTさんのように小学校を卒業できなかった未就学者は福岡県だけでも6543人、全国では12万人を超えており、夜間中学関係者によると、中学校を卒業していない義務教育未修了者は、全国で100万人を超えると推定されています。

日本には、学齢期に学べなかった人たちのために、公立中学校の二部学級である「夜間中学」があります。中学校ですが、ひらがなの読み書きから中学校課程の学習指導を行っています。入学資格に年齢や国籍を問わないことから、不登校のため十分学ぶことができなかった10代・20代の若者から80代の高齢者、さまざまな国籍の人たちが現在も通っているのです。1993年に「夜間中学」をテーマにした山田洋次監督の映画「学校」が全国公開されたことから、その存在は少しずつ知られるようになりました。しかし、2018年現在でも公立「夜間中学」は関東・関西を中心に全国8都府県に31校しかなく、多くの人たちに「学ぶ場」は保障されていないのが現状です。

このような状況を受けて福岡県内には、ボランティアが運営する自主「夜間学級」が3校開設されています。私は20数年前から、この自主「夜間学級」の活動に関わってきました。そのきっかけは、戦後の混乱期に小学校すら満足に通えなかった母が、「学びたい」「学校にいきたかった」と口癖のように言っていたからです。文字を学ぶことは母の夢でした。幸い母は59歳で「夜間学級」と出会い、75歳で生涯を終えるまで学ぶことができました。学ぶ場を得た母の口癖は「今が一番幸せ」でした。学びは母の心を満たしてくれたのです。

「もっと勉強したかった」と言って涙する人、読み書きが不自由なために「誰にも会いたくない」と心を閉ざす人、そして、学びの場を得ることにより「幸せ」を感じてくれる人がいます。
国際識字デーを機に、私たちの社会における識字問題について考えてみるのはどうでしょうか。

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