みんなが共に学び、共に育つための学校をつくりたいー。7年前に始まった毛利台小学校の取り組みが、文部科学大臣奨励賞を受賞しました。その日常に目をやると、学校だけでなく、誰もが過ごしやすい社会をつくるための芽が顔をのぞかせていました。
2時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、一斉に子どもたちが校庭に駆け出してきます。15分間の業間休み。サッカーや鬼ごっこ、ジャングルジムにバスケットボール。校庭のあちらこちらから笑い声が上がり、澄んだ空に広がっていきます。
466人の児童が通う毛利台小学校(以下、毛利台)。障害の有無や国籍などに関わらず全員が通常の学級の一員として、「みんなの教室」を使いながら共に学ぶインクルーシブ教育に力を入れています(下記参照)。
【毛利台小学校インクルーシブ教育の仕組み】
※市立小・中学校では、全校で学習室の児童が通常の学級の一員になっている他、学校の実情に合わせたみんなの教室を設けている
▽インクルーシブ教育とは
全ての子どもが同じ場で共に学び、共に育つことを通して、互いを理解し、尊重し合う共生社会の実現を目指す教育。
▽毛利台小学校では
全ての児童が「通常の学級」の一員。障害がある、外国につながりがある、人間関係づくりに課題があるなどの実情に合わせ、部分的に「みんなの教室」を利用し、通常の学級に戻る。みんなの教室を使った一人一人を大切にする教育が評価され、全国の学校を対象とした第37回教育奨励賞で文部科学大臣奨励賞を受賞した。
■「のびっこ」に行ってくるね
毛利台でのインクルーシブ教育は2016年、県からモデル校に指定されたことをきっかけに始まりました。3年間、「仕組みづくり」「みんなの教室と通常学級の連携」「ユニバーサルデザイン化」を重点に取り組み、少しずつ定着させていきました。特徴的なのは、みんなの教室の中に設けた「のびっこルーム(以下、のびっこ)」です。
のびっこは、学習に不安のある児童が少人数で学び、自信を取り戻して通常の学級に戻るための場所です。校内の教育相談コーディネーターを務める榎木健太教諭は「初めは勉強のできない子が行く場所と捉える保護者や児童もいたけれど、今では『のびっこ行ってくるね』『行ってらっしゃい』と、気軽に行き来する場所になっている」と目を細めます。コロナ禍では、感染などで長く欠席した児童が休んでいた期間の学習をのびっこで補うなど、利用の幅も広がっています。子どもがのびっこを利用する小倉憲一さんは「学校にのびっこのような取り組みがあって、ありがたいと感じている。これからも学ぶ意欲を持ち続けてほしい」と話します。
のびっこの運営に欠かせないのが、教員間での情報共有です。毛利台では、みんなの教室を使ったインクルーシブ教育の開始当初から、全職員で取り組んできました。教員が変わる4月には、毛利台のインクルーシブ教育の仕組みを理解する機会を設け、「みんなが通常の学級にいる」という意識を全員で共有。みんなの教室の担当教諭と担任、教育相談コーディネーターらが、児童一人一人の様子を把握し、通常の学級で過ごすために必要なサポートを考え、工夫しています。加えて、みんなの教室での手法を通常の学級に生かし、全ての児童が学習・生活しやすい学級づくりに取り組んでいます。
■関わりながら互いを知ってほしい
毛利台では、特別支援学級(以下、学習室)を利用する児童も、通常の学級の一員です。体や心の状態に合わせ、通常の学級と学習室を行き来しています。
米澤幸大さん(2年)も学習室を利用する一人。体育や図工、音楽、学級活動などは、学習室の担任などのサポートを受けながら、通常の学級でみんなと一緒に学んでいます。友達と関わるのが好きだという幸大さん。一方で、コミュニケーションの取り方がうまくいかずストレスを感じることも。「体を動かすことや、音楽に合わせて踊ることが好き。おしゃべり好きという自分らしさをまだ出せていない」と話す母親の絵美さん。「学校でいろいろな人と関わる中で、うまくいかないこともあるけれど、みんなに幸大のことを知ってもらいたいし、幸大にもみんなのことを知ってほしい」と願っています。
■子どもの気持ちに寄り添いたい
学習室をはじめ、子どもたちの学校生活は、教員だけでなく多くの人に支えられています。学習室の児童を支えるのは、特別支援教育介助員。移動の介助や安全確保など、児童の個性を理解し、寄り添っています。国際教室を利用する児童に対しては、日本語指導協力者が授業や生活をサポートしています(※)。毛利台で5年間介助員をしている鵜飼都さんは「自分の子どもに先天性の病気があり、学校にはお世話になった。恩返しのつもりで、子どもたちの気持ちに寄り添いたいと思っている」と話します。
※紙面または「【特集】毛利台小学校のインクルーシブ教育 垣根のない学校(2)」参照
■みんなでつないで変えていく
「毛利台で当たり前になっていることが、全国的な賞を受けて驚いている」。多田智子校長はそう話します。一方、「毎年教員の入れ替わりがある中で、関わる人みんなが同じ気持ちで、同じ方向を見て取り組むことが大切」と、つないでいく責任も感じています。柔軟性を生かし、時代の変化も受け入れながら、毛利台に根付いてきたインクルーシブ教育はつながれていきます。
「キーン、コーン、カーン、コーン」。始業を知らせるチャイムが雲一つない空に響き渡ると、子どもたちはいくつもの教室を伸び伸びと行き交います。今日も、垣根のない学校の一日が始まりました。
問合せ:教育指導課
【電話】225-2660
<この記事についてアンケートにご協力ください。>