岩手山が望める広大な滝沢の地で、羊の牧場を営むラオグジャブ・ムンフバットさんを取材。
市内初の事業に取り組む中で、彼の活動の原動力や今後の夢について探る。
■これまでの軌跡
ラオグジャブ・ムンフバットさんは、モンゴルのザブハン県出身の36歳。モンゴル出身の先輩の影響で23歳のときに岩手大学人文社会科学部に入学しました。大学3年生のときに経験した東日本大震災をきっかけに、モンゴルの移動式住居「ゲル(注1)」を被災地に届けたいという思いが芽生えたとのこと。大学卒業後に起業した「株式会社モンゴル未来」では、モンゴル文化紹介の一環として、ウールやカシミヤの輸入、温泉施設内でのゲルの管理運営、モンゴル料理の提供などをしていました。
その後、市商工会青年部への入会をきっかけに生まれた人脈から、8頭の羊の飼育を開始。約4年が経ち、現在の所有頭数は約120頭になりました。国産の羊肉は日本で流通する羊肉のうちわずか0・6%であり、その6割以上が北海道で生産・消費されています(注2)。その中で「岩手を羊肉のメッカ(聖地)にすること」を大きな目標とし、滝沢から羊肉の魅力を発信すべく日々奮闘しています。
(注1)モンゴル高原などで家畜と共に移動しながら暮らす草原の民が組み立てやすいように工夫した伝統住居。
(注2)厚生労働省「平成30年度輸入食品監視統計」から引用。
■ムンフバットさんにインタビュー
現在の目標は「牧場を千頭規模にすること」。大きな夢だが、100頭規模の牧場を10カ所経営するとかなう。お産が得意な人にはお産を、力のある若者には毛刈りを、馬や牛を長年飼育して引退した年配の人には無理せずできる羊の放牧の運営に携わってもらうなど、分業すれば着実に事業拡大が進む。まずはブランディングやネーミングを確立させて、ゆくゆくは100年続く事業にしていきたい。
▽夢に向かって走るあなたへ
夢を追う人や新しいことに挑戦する人へ。私も他の人に言ってもらった時に勇気をもらったので「めげずに頑張っていこうね」と伝えたい。
▽人とのつながり
先輩や農家、羊飼いなど市内外の多様な業種の人との出会いやつながりがきっかけとなり、世界が広がったことがたくさんある。特にまちのにぎわいづくりに励む市商工会青年部の仲間との付き合いは大切にしている。互いに刺激し合う中で自国の文化を見つめ直す客観性が身に付き、大きく変わることができた。仲間たちの期待に応え、恩返しをしたいという思いが原動力になっている。いつまでも原点・初心は忘れずにいたい。
また、去年から食用肉としての販売を始めたが、取引先の料理人に「臭みがないからレアでもおいしく食べられる」と言っていただいたときは大きな喜びを感じた。風土にこだわり、熱い思いを込めた羊肉の味の深みを料理人に理解してもらい、地域の人に味わってもらえる機会があることがとてもうれしい。
▽羊へのこだわり
モンゴルといえば羊の放牧。5畜と呼ばれる「羊・馬・牛・ラクダ・ヤギ」と幼い頃から触れ合って過ごしてきた。羊を通してモンゴル文化を滝沢に広めることはもちろん、事業を通じて、市内外の人に滝沢のきれいな景色などの魅力を発信していきたい。羊肉は体に良い栄養素が豊富で健康づくりにもつながり、羊毛は編み物に向いているため、地元のホームスパン(注3)事業とタッグを組み、スカーフやシャツなどの製作もしている。羊は息以外全てを活用できるといわれ、特産品としても多様な可能性を秘めている。
(注3)手紡ぎによる主に太めの粗糸などを使用した手織物
盛岡のイタリアンレストラン「ドゥエマーニ」や「ホテルメトロポリタン盛岡」で提供中。時期によって出荷量が変動するため、電話予約がおすすめだメ~。
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■学生とキヅク広報紙(職員 橋本)
今回の特集は、市役所学生アルバイトとして企画政策課に勤務している岩手大学3年の片谷琴音(かたやことね)さんが企画から文章、ソフトを使用してレイアウトまで全て製作したものです。自身も就職活動で将来について考えている最中で、取材にもかなり力が入っていた様子。記者顔負けの取材力で、執筆作業も難なく取り組む学生さんの姿には本当に驚きました。
■編集後記(片谷)
仲間のことや将来の夢のことについて話すときのムンフバットさんの輝く笑顔が印象的でした。取材をしていく中で「大変に感じることはない。そう感じたら何もできない」と話す彼の決心や熱意が、着実に夢を実現させる力になっていることを強く実感しました。
大学3年生の私は「夢」について熟考する時期。やりたいことはなんだろうと日々考えながらも、がむしゃらに夢を追う周囲の人の存在に刺激を受けています。取材を通して、年齢や環境にかかわらず、強い意志と同志の存在によって道は開けることを知りました。可能性やきっかけは意外なところに転がっています。「大きさにかかわらず、何か一つでも夢を持つあなたへ。市民の皆さんの持つさまざまな夢が光り輝いてほしい」という思いで執筆しました。
問い合わせ:企画政策課
【電話】656・6562
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