~市立美術館 収蔵品紹介~
■清水登之(しみずとし)《大麻収穫》
麻紐や神社の注連縄(しめなわ)、下駄や草履の鼻緒、さらには七味唐辛子に入っている麻の実と、私たちの生活の意外なところで使われている麻。栃木県の特産物であり、本市でも昭和30年代頃まで麻の栽培が盛んに行われていました。
清水登之は、20歳にして絵を学ぶためにアメリカに渡り、その後フランスへと渡ります。約20年という長い海外生活を送っていた登之が、帰国後、はじめて故郷である栃木を題材にした作品が《大麻収穫》です。
麻畑はひとつの大きな塊のように描かれ、2m程に育った麻を収穫している様子、そして、麻を製品にするために熱湯に浸す作業である「湯かけ」の様子を描いています。
画面右奥には、その特徴的な形から「鍋山」とも呼ばれている三峰山も見えます。さらにその奥にはユニークな形をした大きな入道雲が立ち上がっています。「湯かけ」が済んだ麻は天日干しされますが、収穫の時期は夕立の多い季節。雨が降ると作業に影響が出るため、人々は空模様をいつも気にしていました。この作品では淡々と作業に勤しんでいるように描かれていますが、内心は雨の心配をしているのかもしれません。
登之は、アメリカで栃木の麻を売ることを計画していたらしく、ニューヨークで売られている麻の値段を父親に伝えていました。遠く離れた異国の地で故郷の特産物に思いを馳せていたことがわかります。
そんな登之の思いが込められた《大麻収穫》は、二科展に出品され、登之と栃木を結ぶ記念碑的な代表作となりました。
清水登之《大麻収穫》
昭和4年(1929)
油彩・カンヴァス
縦130.3cm×横162.2cm
問合せ:栃木市立美術館
【電話】25-5300
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