一人一人、得意なことと苦手なこと、できることとできないことは違います。誰にでも得意なことと苦手なことの程度に「違い」があり、その違いが「その人らしさ」につながっています。「その人らしさ」に合わせた働き方がもっと広がったら?
今月号では、自分らしく働いている人の姿や周囲の取り組みを紹介。違いを理解し合いながら共に働くためには何が必要なのか、一緒に考えてみませんか。
【三幸電機 株式会社三重工場】
▽「自分にもできる」と前向きになれた
松原裕一郎さん
小さいころから覚えることが苦手でした。頑張って勉強するけれど覚えられなくて、「みんなは、なんでできるの?」と不思議に思っていました。優しい友達に恵まれたので、「できない」と打ち明けると、「教えたるわ」と宿題を手伝ってくれた思い出も。自分自身の明るい性格もあり、子ども時代は楽しく過ごせていました。
「このままじゃ将来が不安」と思うようになったのは、社会人になってから。上司から仕事を教えてもらっても、覚えられない。「ノートに書けよ」と言われて書いてみても、記憶に定着しない。後から入社した後輩が先に仕事を覚えていく様子を見て、「これはおかしい」と思うように。そんなとき、当時の上司から受診を勧められました。病院でADHD(注意欠如・多動症)と診断されたとき、やっぱりと納得できました。
ハローワークを通じて今の職場に来て、もうすぐ3年です。端的な指示がタブレット端末を通して与えられるので、「自分にもできる」と前向きになれました。自分で考えて仕事ができるようになり、自信がつきました。
▼「働きやすさ」が生む多様な雇用
三幸電機株式会社 常務取締役
中村厚郎さん
▽「見える化」と「スマート化」を進めたら
現在、障がいのある5人が働いています。雇用する際、人と接するのが苦手な人が多いことが分かりました。
我が社では、以前からマニュアルを映像にしたり、従業員一人一人にタブレット端末を配布して進捗状況を確認できたりと、業務の「見える化」と「スマート化」を進めていました。会話しなくても仕事ができる環境が整っていたので、一人で黙々と作業できる業務を用意できました。業務の「見える化」と「スマート化」といった働きやすさを追求した結果、障がいのある人たちの雇用につながりました。
▽腫れ物に触れるような態度はやめよう
障がいのある人の雇用に当たって、従業員たちには「腫れ物に触れるような態度はやめよう」と伝えました。本人の承諾の上、障がいのことを職場で情報共有しています。お互いが幸せになるには、偏見を持たずに理解し合うことが必要だと考えています。
大きな数が苦手な人は、数の管理が少ない業務に携わっています。周囲が障がいを理解していたので、苦手なことに素早く気付いて対応できました。仕事内容と本人の特性をマッチングさせることは、長く勤めてもらう上で大事です。
雇用主と従業員、双方の相談にのってくれる第三者の存在も必要不可欠です。我が社でも、ハローワークや「障害者就業・生活支援センターそういん」などの相談できる機関を活用しています。今後、一層のフォロー体制の充実が求められると感じています。
〇一緒に働いてみて
出口陽一さん
松原さんは誠実な働きぶりなので、助かっています。元気のない人がいたら声をかけるなど、チームのムードメーカーのような存在です。
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