心地良い音が響く大正琴—
今回の特集では、熱い思いで大正琴を指導する田村美保子(みほこ)先生と、受け継ぐ子どもたちを紹介します。
■大正琴とは
大正琴は、1912年(大正元年)に愛知県で発明されました。左手で数字が書かれたキーを押さえ、右手に持ったピックで弦を弾き、音を奏でます。数字で書かれた楽譜のため、大人から子どもまで楽しめます。簡単な構造ですが、とても奥深い楽器です。
■度会町での大正琴
町では、小学生を対象とした「わたらいキッズ・チャレンジ」という取り組みを行っており、その中で大正琴に触れることができます。大正琴教室の講師は、三重県大正琴協会会長を務める田村美保子先生(茶屋広)。この教室をきっかけに、田村先生のもとで大正琴を習う子どもは数多く、全国子供大正琴コンクールでは輝かしい成績を収めています。
大人にも指導を行っており、生徒たちは、毎年町民文化祭で演奏を披露してくれています。
■地域文化功労者として表彰
講師・田村美保子先生
40年前、大切な人に与えてもらった大正琴を普及させたいという強い思いで始め、わずか3カ月で指導者試験に合格。
平成7年には、三重県大正琴協会の設立に尽力し、会長に就任しました。
演奏者として長く活躍され、ミラノ万博や上海万博で演奏を披露しています。指導者としては、未来ある子どもたちに大正琴を伝承するため、無償で指導するなど、後進の育成にも大きく貢献しています。
このように長きにわたり、音楽文化の振興発展における功績がたたえられ、この度、地域文化功労者として文部科学大臣から表彰されました。
■250人を指導したことも
伊勢度会から尾鷲地域まで教室を開いている田村先生のもとには、大人から子どもまで多くの生徒が訪れ、多いときには約250人を指導していました。
■最高賞に輝く
子どもたちが日ごろの鍛錬の成果を披露する「全国子供大正琴コンクール」。
平成21年から開始された当コンクールは、ビデオ審査を通過した出場者のみが本選に進み、審査員の前で演奏します。田村先生が指導する生徒は、初めて出場した平成23年から今年※まで、常に本選に出場し、入賞しています。先生は、「すごく誇らしい。子どもたちが本当によく頑張ってくれた」と話してくれました。
令和5年は40組の応募があり、本選に出場したのは、16組のみです。
最高賞である文部科学大臣賞は、基準に達しなければ受賞者はいません。今年度は3組がこの賞を受賞。そのうち2組が、先生が指導する生徒で、ソロ部門A「吉富心音さん」と2人以上で合奏するアンサンブル部門A「クインテットソナーレ」です。
※令和2年は新型コロナウイルスの影響で映像審査のみ
■次の世代に魅力を伝え続けたい
78歳となった現在も、約70人を指導している田村先生。最高年齢は96歳だそうです。先生は、今後について、次のように期待を込めて語ってくれました。
今日まで大正琴を続けてこれたのは、私の思いに応えてくれる子どもたち、そして支えてくれる周りの人のおかげです。感謝しかありません。
教えてきた子どもたちからは「また大正琴をしたい」「みんなで弾きたい」という声が多く届きます。
今後、この子どもたちが指導者となって、大正琴の楽しさや魅力を次の世代に伝えてくれたらこんなにうれしいことはありません。その日を楽しみに私は、生きている限り指導を続けていきたいです。
■感動を生んだふたつの音色「文部科学大臣賞」受賞
○アンサンブル部門A クインテットソナーレ
たくさん泣いて最後に笑えた5人が奏でるアンサンブル
コンクールで演奏した曲は「シンフォニックマンボNo.5」です。5人で音を合わせるのが難しく、リハーサルでもうまく弾けませんでした。不安と緊張でいっぱいでしたが、私たちも先生も諦めず、本番ギリギリまで練習しました。その結果、納得のいく演奏ができ、文部科学大臣賞を受賞できたのでうれしかったです。来年も、2回目の文部科学大臣賞を取れるように頑張ります。
○ソロ部門A 吉富心音(ここね)さん(注連指)
音楽が好きになった“きっかけ”弾く楽しさを学んだ
大正琴をしていた祖母の影響で、小さいときから楽器に触れていました。小学生のときに、わたらいキッズチャレンジでようやく教室に通えたときは本当にうれしかったです。
コンクールでは、「ツィゴイネルワイゼン」という曲を演奏しました。曲想の変化や感情を表現することが難しく、自宅で練習していても思いどおりに弾けないのですが、先生の教室にくると弾けるようになります。すごく不思議ですが、先生が上手く引き出してくれるんだと思います。来年はソロBになり、レベルもアップしますが、文部科学大臣賞を取れるように精一杯頑張りたいです。
※吉富さんの「吉」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
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