■津市独自の営農継続支援策
津市長 前葉 泰幸
□新規就農者を迎えた担い手
白山地域の60代の担い手Aさんは、30代の息子を含め4人が働く農業法人の代表として43haの農地で米や小麦の作付けを中心に営農しています。共に地域の農業振興を図っていく若い人材を求め、会社員の頃から農業に興味を持っていた40代前半のBさんに声を掛け、今年春から正規に雇用することになりました。
折しも津市は、農業者が新規に人材を雇用した場合の経費を補助する仕組みを創設したところで、23万3,000円が農業者と雇用主に半額ずつ交付されることになりました。Bさんからは、転職後新たな生活を始めるまでの不安定な時期の生活資金として助かったとの声をいただき、Aさんは自らに交付された11万6,500円でBさんの制服と草刈り機を購入することができたと喜んでくださいました。Aさんの息子とBさんは年齢が近いこともあり、若い感性で作業効率が上がるよう日々創意工夫を重ね、農作業に励んでいます。
□農地区画を大規模化した営農組合
安濃地域のC営農組合は、圃場(ほじょう)整備を終えた10aほどの田が整然と連なる農地103haで米、大豆、小麦を生産しています。国の制度を活用し、地権者間の田を区切る畦畔(けいはん)を撤去して大区画化を進めたいと考えていましたが、事業費200万円以上という実施要件のハードルが高く、事業採択は困難な状況にありました。
津市が今年度創設した農地区画大規模化支援事業補助金は、畦畔除去に10m当たり5,000円、除去後の整地に10a当たり7,000円を支給する制度です。C営農組合は今年の収穫後、補助金41万6,700円を受け、畦畔580mを撤去することを決めました。農地は20~70aの大区画となり機械を最大限に活用した大規模耕作が実現します。
□遊休化した畑地で営農開始
栗真地区在住のDさんは、定年退職後、野菜の栽培に取り組みたいと考えていました。借り受けを検討していた376平方メートルの畑地は年2~3回草刈りがなされる程度の遊休農地で、土壌が硬く締まり耕起が不可欠な状態でした。耕運機を所有していないDさんは人力では限界があるとして借り受けを諦めかけましたが、広報津で津市が畑地の新規就農者向けに小規模機械導入支援事業を開始することを知り、経費の2分の1に当たる4万7,000円の補助を受け、小型の耕運機を購入することができました。今年の夏は日照りで土が硬くなりがちでしたが、Dさんは機械を活用し順調に営農を続けています。
□令和版営農会議が示した懸念
これら3つの事例は、国、県による従来の支援策が対象としない分野をカバーするため津市が独自に始めた「営農継続支援事業」を活用したものであり、この新事業を生み出したのが「令和版営農会議」です。
令和元年度に創設したこの会議には、市内12のエリアごとに農業委員、農地利用最適化推進委員、農業協同組合、三重県津農林水産事務所と津市農林水産部・総合支所のメンバーが集まり、組織の枠を超えて地域の課題に向き合っています。5年間で145回開催し議論を深める中で、国や県の事業の要件を満たさずこぼれ落ちてしまう課題が明らかになってきました。
国は、土地改良や水利施設などの農業基盤整備を進めるとともに、地域農業の振興のため、集落単位で水路や農道の維持管理・補修などを行う経費に充てる「多面的機能支払交付金」(R5年度交付額1億9,054万円)や、水田で飼料用米、大豆、小麦などの作付けを促進する「水田活用直接支払交付金」(R5年度交付額9億2,941万円)など、農地を守り活用する施策に予算を重点的に投じてきました。
一方、国の手が届きにくい地域の課題に対処する津市は、ここ10年ほど悩まされ続けている獣害対策に力を注ぎ、防護柵の設置や個体数調整などに毎年1億円近い予算を計上してきました。その結果、担い手や集落営農組織への農地の集積や獣害被害額の減少に一定の成果が見られるものの、農業者の高齢化と担い手不足の深刻化は避けられない状況です。
津市の農家数は直近の5年間で24.4%減少して5,001戸(うち販売農家数は2,588戸)、耕地面積は4.5%減の8,030haになりました。問題は耕作放棄地が7.3%増加して161haに上ったことで、令和版営農会議が喫緊の課題として提示したのが、耕作放棄地の拡大防止です。
耕作放棄地の多くは条件が不利な端々の田畑から始まります。雑草が生い茂った農地は病害虫、鳥獣害発生の要因となって周辺の営農環境に多大な影響を及ぼし、市街地に近い小規模な畑は農作物を食い荒らす獣の隠れ場所となり住居地に出没した野生動物による人的被害が発生するなど生活環境の悪化にもつながります。
耕作放棄地が引き起こす問題は看過できないところまできていることから、田だけでなく畑まで耕作を行う複合的な担い手への集積を図り、小規模な田畑で耕作を継続する農業者への援助を新規就農者も含む個人にまで広げるなど思い切った施策が必要ですが、国、県の制度に該当するものはありません。津市が自らの財源できめ細かな支援策を講じなければ、今後、農地を維持していくことは格段に難しくなってきます。
□地域農業者の要望に応える新規事業
津市は、令和版営農会議が提起した課題の解決を図るため、今年度から新たな支援策を展開しています。事例でご紹介した3つの事業とともに、認定農業者が法人化する際の認証や登記にかかる経費への補助金、狭小、不整形など耕作に不利な農地を借り受ける農業者への奨励金、ジャンボタニシとカラスの駆除の7つの新規事業からなる「営農継続支援事業」に1,535万円を今年度予算に計上しました。
これからも農業者の皆さまとの対話を重視し、農業と農地を守るために必要な支援をお届けしてまいります。
ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
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