■写真が呼び覚ます記憶の数々
今回はアーカイブデータベース事業の最新活動を紹介します。
海の博物館に所蔵される鳥羽志摩の漁業・漁村に関する写真や映像のデータベースを構築する事業で、成果はセンターのホームページで公開し、写真展のかたちで地元のみなさんとも共有してきました。
昨年度に相差で開催した写真展では、昭和40年代以降の写真52枚を展示しました。
これまでは海の博物館所蔵の写真の展示が中心でしたが、今回は事前に提供された、相差のみなさんが所蔵する古写真も展示しました(集まった写真は100枚を超えました)。過去の写真展でも、地域のみなさんが写真を提供してくださることが多々あり、いずれもデータを大学に保管し貴重な学術資産として受け継いでいます。
写真展会場では展示写真に関する思い出話に花が咲き、センターのスタッフと人文学部の学生が、それぞれのお話を記録しました。
たとえば写真1は正月の獅子舞の夜、神明神社の広場での舞を収めたものです。朝から町内を回ったあとたどり着くこの広場では、疲労と興奮が混じり合った熱気が渦巻き、みんなが押しあいへしあいしながら舞を見物したそうです。この写真を読み解くときには、学術的には獅子舞の作法などに注目しがちですが、町のみなさんの語りのおかげで、研究者の目だけでは気づかないさまざまな情報が生き生きと蘇ってきました。
写真2は熊野にテングサ採りの出稼ぎをしたときの集合写真で、相差と石鏡の海女だそうです。熊野で出稼ぎをした80代の海女さんは、「電気がないからランプを使って、川から水を汲んで風呂当番をした。みんなで布団を並べて寝た」「相差の潮の質と違うから、髪が茶色になった。家に帰る前に熊野で黒く染めた」など、たくさんの経験を教えてくれました。「大変で、遊びに出られる休みの日がうれしくて。今になって思うと、あんなことして生活しとったんやねえ」と笑いながら振り返る目に、たくさんの苦労をしながら日々を生きてこられた力強さを感じました。
今後もこのような活動を通して、地域のみなさんとともに大切な記憶を残していきます。
(連携研究員 吉村)
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