人口減少・少子高齢化が進む中、へき地医療も今の時代に合った医療提供体制を考えていく必要があります。離島の市立診療所の所長である医師4人に集まっていただき、持続可能な医療体制についてご意見を伺いました。
・桃取診療所 池田智哉医師
・神島診療所 小泉圭吾医師
・坂手診療所 菅原茂医師
・菅島診療所 中森良樹医師
聞き手:健康福祉課健康係長(へき地診療担当)中村孝之
◇鳥羽市の高齢化率は今年の6月末で41.2%で、離島ではこれを上回る値で高齢化が進んでいます。近年、各地域ではどんな変化がありますか。
中森医師:若い年代が島外・県外の学校や会社に進学・就職することが多く、若い夫婦が減少し、子どもも減っています。独居世帯が増えており、孤独死への対応は今後の課題だと思います。自宅での介護が難しく、施設入所で島を出ていくかたも増えています。認知症の相談が増加していますし、以前は自分で歩いて来院していたのに一人で受診できなくなったかたや、転倒・骨折が増える中、ケガや入院をきっかけに自宅にひきこもってしまうかたも見られます。
菅原医師:坂手診療所に赴任した平成24年には島の人口は450人でしたが、今では250人。独居のかたが多く、高齢化率も70%以上です。平地では自転車なども利用できますが、診療所までの階段は徒歩となります。数百メートルでも歩くのが困難なかたが増え、自宅への定期的な訪問診療や往診を行っています。
◇全国的に、地方で勤務する医師の数も減ってきています。将来を見据え、一人の医師が広範囲をカバーし、高齢者を支える工夫が必要ですね。
池田医師:答志町では令和2年に町内の開業医閉院に伴い、桃取診療所に通院することになったかたがいます。答志・和具地区から桃取診療所に行くには起伏のある道を越える必要があり、高齢のかたなどは町内会に運行協力していただいている送迎車を利用しています。しかし、送迎できる人数にも限りがありますし、送迎車では時間の都合がつきにくい場合もあります。
そこで答志町にオンライン診療室を開設しました。高血圧など慢性疾患のかたには、オンライン診療でも対面診療と遜色ない診察が可能です。桃取診療所から顔なじみの看護師が出向きますし、画面を通じて診察するのはもちろん僕です。当院かかりつけの答志町のかたには診療所で行っているものと同じ診療をオンライン診療室で行っています。
■鳥羽市におけるオンライン診療導入の経緯
◇患者さんの反応は?
池田医師:令和4年12月から始めて、これまで実人数15人程度のかたが利用されました。注射など、直接の診療が必要なかたもいるため、すべての患者さんに…という訳にはいきませんが、体験した9割近くのかたが継続的に利用されています。
確かに最初はオンラインという言葉に不安を覚えるかたもいますが、機械の操作はスタッフが行いますし、勝手がわかるとすぐに受け入れてもらえています。オンライン診療室の利用者でも定期採血などの時には桃取診療所で対面診療を行うのですが、「次はオンラインでお願いしますね」と言われるくらいです(笑)。
オンライン診療室に薬は置いていません。本土側で協力いただける薬局様と連携してオンライン服薬指導を行い、薬を宅配や定期船などで送ってもらいます。当日か遅くても2日後には薬が自宅まで届きます。調剤の待ち時間がなく、通院帰りの荷物にならないため患者さんの負担も減らせています。この仕組みだと診療所にはない薬も出せるので、こうした薬が必要な場合は答志町に限らず桃取町のかたにも利用してもらっています。
◇オンライン診療は患者さんが移動せずに済むのが大きな利点ですね。ほかにもありますか。
中森医師:自分が新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者になった時、菅島に行けなくても遠隔で診療ができました。機器を使って島の患者さんの顔を見ながら話をし、いつもの薬を処方できました。
小泉医師:悪天候などで定期船が欠航した場合、前は神島に行けず、休診せざるを得ませんでした。今は看護師の支援を得て、自分がその場にいなくても遠隔で診療できます。
◇鏡浦地区には今浦、本浦、石鏡それぞれ施設があります(月曜は菅原医師と小泉医師が診察、ほかは三重大学医師が担当)。医師の施設間移動などのため、診療時間が短いのが課題です。そこで令和5年12月から医療と車両を掛け合わせた取り組みを始めました。
小泉医師:診療機会を拡大し、より気軽に受診してもらえる方法として医療MaaS車両を導入しました。病状が落ち着いているかたが自宅近くなどに停めた車の中でオンライン診療を受けられるほか、対面診療が必要なのに、自分で診療所に来ることが難しい場合は、この車両で送り迎えをしています。
菅原医師:これまでの実証で、この車両のメリットを実感しています。車内でタブレット型の端末やカメラなどを使ってオンライン診療を実施していますが、患者さんの様子も診療所側から十分に把握でき、会話も良好に行えます。
小泉医師:医療MaaS車両による送迎の利用も増えています。最寄り以外の市立診療所で膝や腰の注射を受ける患者さんもいて、今までは診療時間や移動の問題で受診しづらかったかたから好評をいただいています。
へき地・離島における医療アクセスの障壁は「距離」です。地域で通院を支援してくれた青壮年層が減少しており、今後、高齢者の通院が難しくなる可能性があります。オンライン診療や医療MaaS車両の活用は、患者さんと医療関係者の間にある物理的な「距離」を縮め、移動の負担を軽減する仕組みです。
新しい技術やアイデアで、へき地・離島に住むみなさんが健康で長生きできるための支援策をこれからも考え続けていきたいと思っています。
■医療MaaS車両が7月10日から市独自のデザインになりました。
新しい技術には横文字が多用されがちですが、地域のかたに親しみを持っていただけるよう、車両には鳥羽を題材とする浮世絵に着想を得た和風デザインを取り入れました。オンライン診療では、医師は離れた場所から診療を行いますが、新たな工夫を使って各地区に駆けつけているイメージを表現しています。
■診療所トピック
市立長岡診療所の運営は県立志摩病院との連携などの面から同病院を運営する公益社団法人地域医療振興協会に指定管理委託しています。
7月1日から、大川克則医師に代わり平沼修医師が着任されました。
問合せ:健康福祉課健康係
【電話】25-1185
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