◆アルツハイマー型認知症の画期的新薬登場
今年の秋にも、アルツハイマー型認知症の新薬が登場します。この薬の商品名は“レケンビ”といい画期的な新薬とみなされています。レケンビは、日本の製薬会社エーザイ社とアメリカの製薬会社バイオジェン社で共同開発されたものです。
さて、日本では6~7百万人の老人性認知症患者がいると言われており、患者の約70%がアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症患者の脳にはアミロイドβという異常なタンパク質が溜まってきます。このタンパク質は脳細胞を死滅させるので、アルツハイマー型認知症の原因物質とみなされています。
レケンビの画期的なところは、アミロイドβを取り除くことです。アミロイドβがアルツハイマー型認知症の原因(真犯人)ならば、認知症が完治するのではないかと期待したくなります。
ところがそう単純な話ではありません。下記のような問題点が考えられます。
1.この薬の適応は早期のアルツハイマー型認知症に限るということです。ということは、中等度以上に進行した患者さんには効果がないということです。死んでしまった脳細胞が蘇ることはないからです。記憶力や判断力に少し低下が出始めている程度が、この薬の適応のようです。
2.アメリカにおける治験では偽薬群に比べ27%に認知症の進行を遅らせる効果があったということです。逆にいうと73%は認知症の進行を止めることができなかったということでしょうか。さらに進行を遅らせる効果というのは、認知症が良くなる方へ向かうのではないので、患者さんの家族からみると(認知症専門医でない医師からみても)薬が効いているのか、どうなのか、分かりにくいだろうと思われます。
3.薬の値段が高いです。アメリカでは年間の薬代が400万円弱だといいます。日本では高額療養制度があるので、患者さんの自己負担はそれほど大きくないはずです。半面、医療財政は厳しくなるでしょう。さらに、治療を開始して、そしていつまで続けなければならないのか、まだ情報がありません。死ぬまで続けなければならないとすると、その累積医療費は莫大になるでしょう。
4.薬を使用する前に、アミロイドβが脳内に溜まっているかの検査が必要です。そのためには髄液検査(1~2日の入院が必要になる)やPET検査などを受けることになるでしょう。PETは、大病院でも設置しているところはほとんどないです。
5.この薬は2週毎の点滴です。通院治療を続けることも大変でしょう。
6.少ない頻度ではありますが副作用(脳浮腫や脳内出血)が発生します。
現在、4種類のアルツハイマー型認知症の治療薬が存在します。いずれも新薬として登場してきた際はかなり期待されましたが、正直なところ、その効果ははっきりと実感できるほどではなかったのです。
今回の新薬にしても、すべてのアルツハイマー型認知症の患者さんに使える薬ではないし、また軽度のアルツハイマー型認知症の患者さんに使えたとしても、効果はかなり限定的な印象がします。“画期的新薬登場”というやや大げさな表題でしたが、本当の実力のほどは、実際に臨床現場で使われて、数年先にわかるでしょう。
国民健康保険脊振診療所 牛島 幸雄
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