■和泉石(いずみいし)の狛犬(こまいぬ)
丹波市文化財保護審議会委員 山内順子
写真は市島町下竹田にある二宮(にのみや)神社の狛犬です。台座には「文化九年(1812年)泉州石工(せんしゅういしく)伊助」と銘が刻まれています。大阪府南西部の泉州は「和泉石(いずみいし)」という加工に適した砂岩(さがん)の産地で、優れた石工が多くいました。
団子鼻と、口角が上がっていて陽気に笑っているように見えるのが泉州で作られた狛犬の特徴です。ただし、尾や耳は一様ではなく、いくつかの系統があります。写真の狛犬は、大阪市住吉区にある住吉大社の太鼓橋(たいこばし)近くにある狛犬によく似ています。
作者が明確に刻まれていることは稀ですが、丹波市内ではほかにも多くの和泉石狛犬を見ることができます。では、これらはどのように運ばれてきたのでしょうか。すべてが解明されてはいないものの、柏原八幡宮に和泉石狛犬を奉納した上山家(うえやまけ)の文書には、運送ルートが記録されています。それによると、泉州で切り出された石を大阪の工房へ運び、狛犬に仕上げて、海船で高砂へ運びました。高砂に着いた後、加古川を川舟で遡(さかのぼ)り、本郷の湊で陸揚げされ、そこからは荷車に載せられて柏原に到着したことがわかります。
3月号で紹介した福井県で作られた笏谷石(しゃくだにいし)狛犬は、由良川を遡ってきたことが推定されると述べました。一方、和泉石狛犬は、加古川を遡ってきたことがわかりました。
丹波市は、日本海と瀬戸内海につながる大きな二つの川があるおかげで、異なる地域で作られた狛犬を見ることができる貴重な場所となっているのです。
問合せ:社会教育・文化財課(山南庁舎内)
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