■認知症に対する誤解~3つの事例~
内科・総合診療科第三部長 山口 仁史
《1》「認知症は記憶がなくなる病気?」
半分正しいですが、それだけではありません。確かに初めは新しいことが覚えられなくなります。発症から数年で、目の前で起こっていることの意味が理解できなくなったり、さらに進むと食事やトイレのやり方もわからなくなったりします。
最後は、食べ物を飲み込むこともしなくなります。食べないことは、患者本人にとっては苦痛ではありませんが、記憶の障害から始まり、10年以上かけて、生命にもかかわる病気ともいえます。
《2》「認知症が治る薬がある?」
現在のところありません。先月承認されたレカネマブですら、進行スピードを2~3割遅らせるだけです。よく、認知症に効くというサプリメントや書籍の広告がありますが、要注意です。認知症は一度進んでしまったら戻らないのです。そして、この新薬も、認知症疾患センターなどの大きな施設(兵庫県下に25施設、北播磨では西脇病院のみ)などで、精密検査を受け、この薬が効くと医師が判断した一部の方にしか処方されません。
《3》「忘れたことも、もう一度言えば思い出す?」
これも誤りです。認知症の方が何度も同じ質問をすると周りの人がびっくりしますが、本人は初めて聞いているつもりなので、何度聞かれても初めて聞いたように接してあげる必要があります。間違いを指摘したり、失敗を責めたりすると、不安が強くなり、精神状態が悪化したり、異常行動を起こしたりします。これを、「周辺症状」といいます。接し方ひとつでも、認知症の方が幸せに過ごせる場合があるのです。必ずしも新薬に頼る必要はないのです。
私は、多可町の「認知症サポート医」でもあり、「認知症初期集中支援チーム」の一員として活動しています。認知症を担当する役場職員や、介護関係の方々と医療とをつなげる役割をしています。認知症は本人だけでなく、家族やかかわる様々な人にも影響します。時には家庭に訪問することもあります。専門は内科ですが、認知症の方は同時に多くの病気を抱えていることもあり、内科の経験をいかしていきたいと思います。
※参考文献「不幸な認知症 幸せな認知症」上田諭、「マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界」川畑智,遠藤英俊他
問合せ:多可赤十字病院
【電話】32-1223(代表)
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