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〔コラム〕忠臣蔵の散歩道(54)

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兵庫県赤穂市

■義士像と開帳
―東京都港区泉岳寺の赤穂義士木像―

東京都港区高輪(たかなわ)にある泉岳寺(せんがくじ)は、吉良(きら)邸討ち入りを果たした赤穂義士たちが主君浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)の墓に吉良上野介義央(こうずけのすけよしひさ)の首を捧げたという、赤穂事件の舞台の一つです。主君の墓の傍らには義士の墓が整然と並び、今もなお参拝者があとを絶ちません。
赤穂事件の当事者として、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の登場人物として、47名の義士の姿は記され語られ、絵画や彫刻に表されてきました。ここ泉岳寺にも、制作年や制作者を異にする数種類の赤穂義士木像、計55体が安置されています。本稿ではこれらのうち“鷲屋石巒(わしやせきらん)作”と伝わる木像群について紹介します。
この木像群は当初は47体が制作されたと考えられますが、現在は大石内蔵助(おおいしくらのすけ)像、大石主税(ちから)像、堀部弥兵衛(やへえ)像、堀部安兵衛(ほりべやすべえ)像、村松三太夫(まつむらさんだゆう)像の5体が現存するのみです。像高は約90cm、火事装束の姿ですがいわゆる雁木(がんぎ)模様の揃(そろ)いの羽織(はおり)ではありません。大石親子は端然(たんぜん)とした静の姿、堀部親子と村松三太夫は四肢を闊達(かったつ)に動かす動の姿をとります。目には玉眼を入れ寄木造(よせぎづくり)とし、内蔵助の統率者としての威厳(いげん)、主税の若さ、安兵衛と三太夫の精悍(せいかん)さ、弥兵衛の年長ぶりを細やかな顔貌(がんぼう)表現であらわします。装束には漆塗蒔絵(うるしぬりまきえ)で模様を描き、金属や皮製品の質感までも捉えようとしています。これら迫真性のある木像はどのような経緯で制作されたのでしょうか。
元禄14(1701)年の赤穂事件から147年後の嘉永(かえい)元(1848)年2月、泉岳寺では6度目の開帳が行われました。開帳とは寺社が安置する秘仏霊宝(ひぶつれいほう)を一定期間公開し広く人々に拝観させたもので、後には見世物(みせもの)小屋や茶店が軒を連ね、興行(こうぎょう)色が強まりました。嘉永元年の泉岳寺の開帳でも、寺宝に加え義士の遺物公開やからくり興行、忠臣蔵の歌舞伎(かぶき)上演等で賑(にぎ)わいました。この開帳のために制作され見世物小屋でお披露目(ひろめ)されたのが、ここに紹介する義士木像群です。発起人は泉岳寺の門番であった戸田与五右衛門(とだよごえもん)なる人物で、彼は江戸の内外、身分の貴賤(きせん)を問わず広く奉納者を募(つの)りました。鷲屋石巒をはじめ14人の人形師と6人の蒔絵師が制作に携わりましたが、現在作者として名を残すのは石巒ただ一人です。彼は安芸長浜(あきながはま)(広島県)に生まれ松山(愛媛県)で彫刻を生業(なりわい)としていましたが妻子を捨てて江戸へ出て、松山藩主松平家に召され種々の彫刻を制作しました。晩年は水戸で過ごした後、松山に戻り84歳で没したといいます。根付(ねつけ)、山車(だし)人形、雛(ひな)人形、煙草(たばこ)入れなどを自在に彫り表すのみならず絵もよくしたといいますが、彼の作として現存するのは泉岳寺の義士木像のみです。
奉納者の顔ぶれは多彩です。義士との所縁(しょえん)が推測できる松山藩士、浮世絵の出版関連と思われる地本問屋(じほんどいや)や絵草紙(えぞうし)問屋、「仮名手本忠臣蔵」にちなんだ猿若町(さるわかちょう)・常盤津(ときわず)・義太夫連中(ぎだゆうれんちゅう)、東海道沿いという泉岳寺の立地に関係する品川宿(しながわしゅく)・陸尺(ろくしゃく)・手廻り連中、などです。特異なものでは首斬(くびき)り浅右衛門(あさえもん)として知られる山田浅右衛門や侠客大前田英五郎(きょうかくおおまえだえいごろう)が複数の義士を奉納しています。制作者、奉納者ともに、じつに多岐にわたる人々が本木像群に携わっており、発起人与五右衛門のネットワークの豊かさやプロジェクトの規模に驚かされます。
泉岳寺の開帳を契機として制作された本木像群は、参拝の対象であるとともに見世物として大いに評判を呼び、公開と同時にこれらを描いた浮世絵も刊行されました。開帳終了後も同寺に留め置かれ、現在は境内(けいだい)にある義士木像館と赤穂義士記念館に安置されています。泉岳寺の石巒作義士木像は、江戸時代後期に赤穂義士がどのように捉えられ、いかなる場で受容されたのかを示す、貴重な作例ということができるでしょう。
(港区立郷土歴史館 野口(のぐち)朋子(ともこ))

参考:野口朋子「泉岳寺の赤穂義士木像について―開帳をめぐる造像―」『港区立郷土歴史館研究紀要2』2022年港区立郷土歴史館

◎赤穂市立歴史博物館では”泉岳寺開帳と浮世絵「義士四拾七人之内」”と題して2月27日まで関連の浮世絵を展示しています。併せてご覧ください。

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