私は、役者。
本格的な歌舞伎で、多くの観客を魅了ー
昨年12月、20回目の公演を迎えた「せきのみや子ども歌舞伎」の魅力に迫ります。
■「葛畑座」の伝統
国の重要有形民俗文化財の葛畑歌舞伎舞台は、回り舞台のある本格的なもので、明治25年に建造され、昭和9年頃に途絶えるまで農村歌舞伎「葛畑座」の舞台として使用されました。
公演は昭和39年、41年に再び行われたものの、続けることは叶いませんでした。
平成14年にかやぶき屋根の修理が行われたことをきっかけに、平成15年、住民らの手で、葛畑座の復活公演が37年ぶりに実現。
農村歌舞伎の伝統を受け継ぎ、次代を担う歌舞伎役者を育成しようと、同年、「せきのみや子ども歌舞伎」を旗揚げしました。
以来、コロナ禍で開催を見合わせた令和2年を除き、毎年ノビアホールなどで公演が行われています。
■「本物」の舞台
毎年楽しみにしているという人も多いせきのみや子ども歌舞伎の魅力のひとつは、本格的な舞台。
指導者の水口一夫さんは、片岡愛之助さんなどプロの歌舞伎役者の振り付けや演出を手がける(株)松竹の劇作家・演出家。せきのみや子ども歌舞伎旗揚げ当初から、子どもたちを指導しています。
本番で使用するかつらや化粧、衣裳を手がけるのも、三味線、鳴物の演奏もプロで、「本物の舞台」に仕上げます。
■小さな役者、大きく成長
一方で、出演する役者は、但馬一円から集まった、多くが未経験の小中学生。初めて演技や舞踊に挑戦するという場合も多くあります。
子どもたちは、初顔合わせから約半年間稽古に取り組みます。
夏休みや公演直前など、30日程度の稽古を積み、本番を迎えます。
これまでで、延べ120人の子どもたちが役者として舞台に立ち、大人顔負けの演技で観客を魅了してきました。
ときに厳しい稽古を通じて、子どもたちは、協調性や礼儀作法、和の心を学び、成長していきます。
■支える大人たち
子どもたちの保護者は、送迎だけでなく、黒子等、子どもたちをサポートします。
また、水口さんだけでなく、葛畑農村歌舞伎伝承会、地域の日本舞踊の名取も稽古に参加。子どもたちを指導し、地域全体で作品を創り上げています。
子どもも大人も、力を合わせて本番の公演を目指します。
■華やかに魅せる第20回記念公演
▽出演
本紙をご覧ください。
▽20回目の舞台
第20回記念公演が12月9日、やぶ市民交流広場ホールで開催されました。
今回の役者は、養父市、豊岡市、朝来市、香美町から集まった小学2年生から高校3年生までの7人。第20回公演を盛り上げようと、かつての役者も参加しました。
20回を記念し新たに振付された「関宮三番叟」で公演が幕開け。安本奈央さんが堂々と披露しました。
歌舞伎の演目は「魔界転生道成寺」。地元出身の作家、山田風太郎の小説「魔界転生」と歌舞伎舞踊の大曲「京鹿小娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」をかけあわせた指導者の水口一夫さんオリジナルの作品です。
以前から山田作品を取り上げたかったという水口さん。「魔界転生」の「道成寺」の項から着想を得て、歌舞伎ファンの支持も厚い華やかな作品とあわせることで、記念公演にふさわしい演目を作りました。
琵琶法師に扮したナレーターの岡田梨愛さんが琵琶を携え、客席の間の通路に登場し、観客を舞台に引き込みます。
井上実音さん、宮崎愛菜さん、尾﨑百香さんが、20回目の公演が盛大に開催できたことを感謝し、「来年、再来年もせきのみや子ども歌舞伎が続けられますよう、皆さまのお引き立てを」と口上を述べました。
見どころのひとつである舞踊は、3人に加え、安本実央さん、尾﨑奏太さんが、1人ずつ華麗な舞を披露。
クライマックスの激しく争う場面では、安本実央さんと尾﨑奏太さんが華麗な立ち回りで観客を圧倒しました。
役者たちは、6月から約半年間、稽古場や家などで自分と向き合いながら、練習に励んできました。
その成果を存分に発揮し、演じ切った役者たちに、満員の客席から惜しみない拍手がおくられました。
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