今月の保健師 越和稚子さん
■ニコチン依存症について
「禁煙して下さい!」「たばこやめて!」と家族や職場の同僚、健診を受けた際に指摘されたりするなど、耳が痛くなる経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。分かってはいるけどやめられない、そもそもやめる気持ちはない、今さらやめても遅いのではないかなど、理由はさまざまだと思います。
気づかないうちに、ニコチン依存症になっていませんか?やめたいのにやめられないのはニコチン依存症という病気になっている可能性があります。ニコチン依存症とは、血液中のニコチン濃度がある一定以下になると不快感(イライラやストレスなど)を覚え、ここで喫煙すると脳波が一時的に正常に戻るだけでなく、快感物質(ドーパミン)も放出されるため「たばこでリラックスできる」と錯覚してしまっている状態です。この状態を繰り返していくうちにニコチン依存症になり、知らないうちにニコチンのワナにはまっている可能性があります。自分が今どの状態にあるのか、たばこ依存度チェックでぜひ確認してみて下さい。
■禁煙後に起こる身体の変化
保健指導の際に「今さら禁煙しても遅いのではないか。」とお話しされる方がいますが、禁煙するのに手遅れということはありません。禁煙後、早ければ1か月経過すると、せきや喘鳴などの呼吸器症状が改善します。また、免疫機能が回復して、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりにくくなります。さらに禁煙後1年たつと肺機能が改善し、禁煙後2〜4年後には虚血性心疾患や脳梗塞のリスクが約1/3減少するといわれています。ここに述べた以外にも、さまざまな健康改善が起こるといわれています。
■受動喫煙について
少し視点をかえて、受動喫煙についてお話したいと思います。
みなさんは受動喫煙という言葉を聞いたことがありますか?
まず、たばこの煙には3つの種類があります。(1)主流煙(喫煙者が直接たばこから吸い込む煙)(2)副流煙(火をつけたたばこの先端から立ち上る煙)(3)呼出煙(喫煙者が鼻や口から吐き出す煙)
このうち副流煙と呼出煙を合わせて「環境中たばこ煙」と呼び、喫煙者本人も含めた喫煙者の周りにいる人たちが環境中たばこ煙にさらされることを受動喫煙といいます。環境中たばこ煙は主流煙とは異なり、本人の意思とは無関係に吸わされるものです。
たばこを吸っている人の近くにいれば受動喫煙を免れません。受動喫煙の大きな問題の一つは、喫煙をする本人よりも受動喫煙のほうが身体への影響が大きいことです。実は、服や髪の毛、カーテン、家具、壁などからたばこ臭を感じた時には、有害物質を体内に吸い込み、受動喫煙(二次喫煙)の被害にあっています。
■受動喫煙の影響について
受動喫煙のリスクとして、肺がん(ヘビースモーカーの夫をもった女性では肺がん死亡のリスクが約2倍になると報告している論文があります)、虚血性心疾患、脳卒中があげられます。短期間の受動喫煙でも、頭痛、頻脈、血圧上昇がおきます。その他にも、むし歯や歯周病、肺炎や気管支炎、気管支喘息を引き起こす可能性もあります。受動喫煙の影響を最も大きく受けるのは身体がまだ発達途中の段階にある子どもです。日本呼吸器学会のデータによると、受動喫煙下にある子どもはそうでない子どもに比べて、虫歯のリスクは2倍、肺炎や気管支炎のリスクは1・5〜2・5倍、気管支喘息のリスクは1・5倍に上昇すると言われています。さらに受動喫煙は胎児にも影響を及ぼし、流産のリスクや低出生体重児のリスク上昇につながるといわれています。たばこの臭いがすると感じたら、もう被害にあっています。
■受動喫煙を防ぐためには
「別室で吸う」「換気する」「空気清浄機」などの分煙が受動喫煙を減らせないことが客観的指標を用いた研究でわかっています。完全禁煙以外に受動喫煙からまわりの人の健康を守る対策はありません。
知らず知らずのうちに、大切な家族やまわりの人の健康を脅かしていないですか?今からでも決して遅くはありません。5月31日から1週間は世界禁煙デーとなっています。自分自身の健康と大切な家族やまわりの人の健康を少しでも長く守れるように、たばこをやめられるきっかけになることを願っています。禁煙について相談したい方は、健康推進係までお気軽にご相談下さい。
▽タバコ依存度チェック
問1.朝起きて、最初のたばこを吸うのは何分後?
a.5分以内…3点
b.6~30分…2点
c.31~60分…1点
d.60分以降…0点
問2.禁煙の指定がある場所でも禁煙するのがつらいですか?
a.はい…1点
b.いいえ…0点
問3.1日の喫煙で、どちらがよりやめにくいですか?
a.朝の最初の1本…1点
b.その他の1本…0点
問4.1日に何本吸いますか?
a.31本以上…3点
b.21~30本…2点
c.11~20本…1点
d.10本以下…0点
問5.起床後数時間のほうが、他の時間帯より多く喫煙しますか?
a.はい…1点
b.いいえ…0点
問6.風邪などで寝込んでいる時も喫煙しますか?
a.はい…1点
b.いいえ…0点
▽判定
・0~3点 依存度低い…あなたの「たばこ依存度」は低いです。そのため、やめたい気持ちが充分に固まっていればたばことサヨナラできるはずです。
・4~6点 依存度中程度…ニコチン依存の離脱症状(※1)が妨げとなって、過去に禁煙している場合、対処法を決めておきましょう。ニコチンガムやパッチも有効です。
・7~10点 依存度高い…あなたの「たばこ依存度」はかなり進んでいます。たばこをやめるときには、禁断症状が強くでることを覚悟しましょう。でも、ニコチンガムやパッチの利用をすれば、仕事などの日常生活に支障をきたすことなく禁煙に取り組めます。
引用文献:一般社団法人日本呼吸器学会
※1 数週間以上にわたり喫煙習慣のあった人が、急にたばこをやめたり、減らしたりした時に生じる不快な症状(たばこが吸いたい欲求、イライラ、怒りっぽい、落ち着かない、集中できないなど)のことです。
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