◆子どものネット・ゲーム依存を考える
◇家庭内のコミュニケーションの質と量の低下
長期に日本人の意識調査を実施した児島氏他(「現代日本人の意識構造(第6版)」新曜社2004)は、現代社会の親は子ども時代にテレビ文化に染まり、青年期にパソコン・携帯の普及という時代の流れを体感し、家族関係的に見ても著しく夫婦・親子の対面コミュニケーションの質と量が稀薄あるいは減少を見せ、メディアがその空白部分に浸透している、と指摘しています。家庭内で常にテレビがついている環境の中で子どもが活動し、夫婦がそれぞれテレビを見たりスマホを見ていたりする状況で、互いの会話がない。といった状態がよくある風景になってきているように感じます。
◇子どものメディア接触の問題
乳幼児期からのメディア接触はその発達(特に脳び)に影響を及ぼすといわれています。養育者との情緒の交流・相互作用が少なくなると、子ども自身の感情表現が現れにくくなり、コミュニケーション能力や対人関係スキルの発達を阻害していきます。刺激の強いメディアに関心を向けることはできても、周りの変化や刺激に感応し、注意を集中することが困難になるともいわれています。またコロナ禍で、養育者・保育者のマスクの着用により、子どもの表情や目線などノンバーバルサインを認識する「共感性」の育ちが阻害される新たな要因となって、メディアへの偏向が進みつつあることを懸念しています。
ネット・ゲーム依存に至る子どもは、厚生労働省の調査によると2017年で93万人存在しているといわれています。子どものネット・ゲーム依存は深刻化を増していて、WHOでもゲーム障害を治療が必要なものと認定され、ネット・ゲーム依存は薬物の依存と同じように報酬に関わる脳の神経回路(報酬回路)が繰り返される快感刺激により変化した行動嗜癖という病気として、日本でも専門的な治療が進みつつあります。脳の障害に至る前に、予防という観点からも子どもの生活を見直す必要があります。
◇「遊び込む」ことの大切さ
子どもの健全な成長・発達にとって、特に幼児期においては仮想現実の世界への接触よりも現実世界において「遊び込む」ことが、何よりも大切なことはいうまでもないことです。子どもは「遊び込む」ことを通して、物や人や周りの環境と相互にかかわりつつ、自らの内的な世界を豊かにしていきます。現実と仮想現実との適切な境界線を保ち、健全な心を育成するためにもメディア偏重の傾向を抑制し、家庭生活においても幼児教育においても自発性・創造性あふれる子どもの豊かな「生きる力」を活性化させる「遊び」の大切さや意義を見直す必要があると考えます。
「子どもは外で遊ぶ」ではなく「子どもと共に外で遊ぶ」、スマホを置いて子どもの目を見て「対話する」、子どもとの日常を見直してみませんか。
◆杉本太平(すぎもとたいへい) プロフィール
宇都宮共和大学子ども生活学部教授。資格は認定心理士、人間関係士。
東京都文京区教育センターの心理相談員や埼玉県下で乳幼児健診・乳幼児発達支援・子育て支援などに従事し、現在大学において保育者養成に務めている。その他、人間関係・HRST研究会会長として関係学理論を背景に独自に開発した地域住民や対人支援の専門職者を対象に心理劇を用いたアクティブラーニング(HRST)の研修会を主催し、子育て支援者の養成を中心に各種の講演活動、子育て・人間関係に関する出版物の発行を行っている。
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