■連載162
仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝
いよいよ実りの秋、味覚の秋を迎えます。十勝の食の豊かさを実感できる季節ですね。
厚生労働省が男女賃金格差について、都道府県ごとの数値を初めて公表しました。この男女賃金格差は、国際比較の面からも指摘されている問題でした。たとえば、経済協力開発機構(OECD)の調査(2022年)によれば、男性の賃金水準を100としたときの女性の賃金水準は78・7であり、OECD38カ国平均87・9を大きく下回っています
(『朝日新聞』2024年9月4日付記事)。
厚生労働省の数値も同様に、男性の賃金を100としたときの女性の賃金を示しています。上位・下位それぞれ第3位まで見てみましょう。格差最小では、高知県80・4、岩手県80・3、長崎県80・2の順でした。他方、格差最大では、栃木県70・1、茨城県72・1、長野県72・8の順でした。女性の賃金は男性の賃金と比較して、70~80パーセント程度に抑えられている実態が明らかになりました。ちなみに北海道は75・3で賃金格差の大きい部類に入るでしょう(『朝日新聞』2024年9月4日付記事)。
男女間で賃金格差が生じる要因としては、女性管理職の割合、平均勤続年数、正規雇用・非正規雇用の割合などが、考えられます。言い換えれば、女性の勤続年数が長い上に正規雇用の女性の割合が高く、かつ女性管理職の割合が高い広域自治体ほど、賃金格差は小さいと言えるのではないでしょうか。また、それは逆も真なりと。女性は勤続年数が短いとか、女性の管理職志望者が少ないとかの統計的差別や、女性は結婚すれば退職してしまうとか、女性はマネジメントが得意でないとかの経験的差別を克服していかなければなりません。
言うまでもなく、地方の人口減少には歯止めがかかっていない現状があります。それは不都合な真実です。地域の人口の未来を予測するためには、出生数の増減と人口移動の増減によって決定されます。あくまでも私見ながら、日本の場合、出生数の増減は婚姻数に影響を受けると考えられます。移住促進策は地域間での人口争奪戦であり、ゼロサムゲームです。
それゆえ、いわゆる婚姻力を地域で高めるためには、20歳代人口とりわけ女性人口の流出を防ぐ手立てが求められます。東京一極集中が批判されて久しいにもかかわらず、コロナ禍を経ても事態の改善は全く進んでいないと言っても過言ではありません。その理由は明快です。東京都は転入超過であり、しかも女性の転入超過が男性の転入超過を上回っています。
それでは北海道はどうでしょうか。20歳代の社会増減(2023年)を見ると、男性2249人減、女性3046人減です(天野馨南子「2023年20代人口流出率にみる「都道府県人口減の未来図」(1)」『ニッセイ基礎研レポート』(2024年4月8日))。女性の流出が男性の流出を上回っています。まさに人口の北海道再生産機能が衰退の危機に瀕しています。
地域の雇用力を高めて、女性の流出に歯止めをかける手段の一つは、男女賃金格差の是正ではないかと、私は考えます。もちろん子育て支援も必要でしょう。ですが、働く20歳代未婚女性の待遇改善が重要課題です。軽率の誹りを覚悟の上であえて言うならば、地元企業は未だに男性優位の組織ではありませんか。繰り返しになりますが、地域の出生数が減少する要因は、夫婦間の子ども数が減少したことよりも、婚姻数の減少言い換えれば20代未婚女性の流出が主因でしょう。地元企業の雇用力が問われると思います。
▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>