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タンチョウ博士のお話(第36回)

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北海道長沼町

■立ち入り禁止は、誰のためにするの?
皆さんは、たとえば空港とか、建設中のビルの工事現場とかさまざまなところで、「立ち入り禁止」の看板を目にされたことがあるでしょう。
また、こうした看板とは別に、道路工事中に立ち入りを制限したり、物の置き場を示したりするのに使われる色付きの三角コーンなども、入ってもよい場所とダメな場所を示すのに使われ、日常目にすることも多いはずです。なおこのコーンは、トウモロコシなどの穀粒(こくつぶ)のことではなく、三角錐(さんかくすい)や円錐(えんすい)状のものを指す英語です。スペルは穀粒がcorn、三角錐はconeで、たいへん紛(まぎ)らわしいですが、ソフトクリームの手に持つ部分の名称は後者です。
さて、表示方法は違っても標識は当然「ヒトからヒトへ」の指示です。現に、舞鶴遊水地を囲む堤防(ていぼう)(周囲堤(しゅういてい))は、今年4月初旬から9月初旬まで立ち入り禁止でした。タンチョウの繁殖行動とそのために必要な環境を守るための警告(けいこく)です。
ところが、その警告をヒトは守ったのに、タンチョウは6月24日頃から家族そろって遊水地の外の水田などに現れ、少なくとも9月初旬まで居座っていました。餌は水田にいるカエルなどを捕りながら、秋に蒔(ま)いた麦の穂や、まだ実っていない稲穂(いなほ)なども嘴(くちばし)で削(そ)ぐように食べていました。
農作物はヒトにとり命を保つ大事なものですから、農耕地へは関係者以外、タンチョウも立ち入り禁止です。しかし看板や標識を理解できないタンチョウに、立ち入り禁止をどう伝えるとよいのでしょうか。たとえば相手がシカなら、飛び越えられない高さの電気牧柵(ぼくさく)で囲(かこ)えば済みます。が、タンチョウは空を飛ぶので、広大な水田をネットで全面覆(おお)うなど出来ない相談です!
今のところ、番(つが)いや飛べないヒナ連れで水田へ来たら、「収穫(しゅうかく)が終わるまで水田は危ないところ」、とタンチョウに納得(なっとく)(学習)させるしかありません。特に、水田へ出てきたら直(ただ)ちに、しかも徹底的(てっていてき)にその癖(くせ)?を治(なお)し、ヒナが飛ぶようになるまで遊水地内に留(とど)めることが必要です。ただ、収穫を終えた畑や水田では、後片付(あとかたづ)けの役割を認め、落ちこぼれた穀類(こくるい)や落穂をタンチョウが利用するのを見守りましょう。
長年の保護活動で、タンチョウはヒトに慣れ、給餌や農耕地の豊富な餌のおかげで羽数も増えました。同時に、ヒトの活動領域にも進出し、道東では酪農業とのトラブルも多発しましたが、対策と効果もある程度示されています(※)。しかし、道央のような水田地帯での問題対処(たいしょ)は、まだ出来ていません。
長沼町は、タンチョウの保全をめぐり高い評価を受け、他地域の手本とされています。と同時に、農業被害を抑えるという相反(あいはん)する二つの問題にどう向き合うかが、長沼町の課題なのです。水田での食害を防ぐ様々な試みを行いながら(写真)、これからタンチョウが分布を広げるであろう地域も含めて、タンチョウのためにも、ヒトのためにも、有効な対策を見つけて頂きたいと心から願っています。(文:正富宏之)

※被害対策は本紙掲載QRコードを参照
タンチョウによる農業被害対策(環境省)

問合先:役場企画政策係
【電話】76-8015

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