「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表を務める篠原鋭一先生が、人生を楽しくするレシピをご紹介します。
■“分け合えば余る、奪い合えば足りない”
新型コロナウイルスの感染拡大で、母子家庭18.2%が一日の食事回数を減らしていたことがNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の調査でわかりました。
同法人の赤石千枝子理事長は「ぎりぎりの生活だったところに新型コロナが追い打ちをかけた。格差を固定化しないためにも、日頃からの政府支援が必要だ」と訴えます。
おかげさま農場主の高柳さん(七十歳)が語ります。
「今朝、朝ご飯を終えて食卓を見たら、家族が残した食べ物がいっぱいでした。食料不足で多くの人たちが餓死したり、栄養失調におちいっているという現実がある一方で、食べ残して捨てられるたくさんの食料があるんだと思ったら、やりきれない気持ちになりましてねえ。これでは今に、取り返しのつかないことが起こる。そんな気がします。」
私は、大きく頷いて語りました。
「新聞や本から仕入れた話ですがね。今、世界の人口は約八十億人。今世紀の末には100億人を突破するという試算もあるそうです。もしそうなった時、大問題が起きます。
この地球は、百億の人間の胃袋を満たす食料を作る力はありません。その時何が起こりますか?食料戦争です。今まで満腹が当たり前と思っていた人間が空腹に耐えきれず、食べ物を求めて食料の奪い合いを始めるのです。
特に食料の多くを輸入に頼っている日本は、飢餓地獄となりましょう。高柳さん、遠い未来の話ではなく、あなたのお孫さんが飢餓地獄で苦しむかもしれないのです……」
「いったい、どうしたらいいのですか?」
「問題はあまりにも大きく複雑で、具体的な解決方法は簡単には見つかりません。でも、高柳さん、これだけはお孫さんに、いいえ、多くの子供たちにしっかりと教えておいてください。〃人間であることを捨てて餓鬼になってはいけない〃と。そのためには、〃分け合えば余る、奪い合えば足りない〃ということを肝に銘じなさいと……。これができるのが人間であり、これができてこそ人間に成長したということです。人と人との間に、お互いが幸せになることのできる条件を積み上げてこそ人間です。人間に成長した若者たちはきっと飢餓地獄を作るようなことはしないと信じたいものです」
高柳さんが確かめるようにつぶやきました。
『分け合えば余る、奪い合えば足りない……』
▽篠原鋭一(えいいち)氏
1944年兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。
千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。
同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。
「NPO法人自殺防止ネットワーク風」代表。
公立の小学校・中学校・高等学校を巡り「いのちを見つめる」課外授業を続けている。
「生きている間にお寺へ」と寺院を開放。
「少年院」「拘置所」で特殊詐欺犯罪の結末を説き続けている。
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