■一貫教育で目指すコミュニケーション能力
こども園は、幼稚園と保育所の機能を併せもち、0歳から小学校入学前までの発達の連続性に配慮しながら保育・教育を行う施設です。そして、睦沢町では、小・中学校と連携することで、0歳から十五歳までの一貫した教育を行っています。
この一貫教育で目指すのは「豊かな人間力や社会力を身に付け、自ら一歩をあゆみ出す十五歳の育成」です。人間力や社会力には様々な要素がありますが、とりわけコミュニケーション能力を重視しています。コミュニケーション能力は、日本の保育や教育、さらには、多くの企業で職員の採用に当たって重視している能力でもあります。つまり、これからの世の中を生きていくうえで最も重要視されている能力の一つと言えます。
睦沢こども園では、コミュニケーション能力の土台である「人との関わり」を大切にしています。
(1)「人との関わり」の基礎づくり(愛着関係)
乳幼児期における保育者、家族などの大人の接し方で大切なことは、目と目を合わせて積極的に声をかけること、優しく抱きしめ、体で愛情を示すことです。
乳幼児が自分の方を向いて笑えば、笑いかけ、声をかける。何かに手を差し出したら、「これはね、ミカン。これが欲しいの?」と持たせる。「これ、なあに?」と聞いてきたら、わかりやすく答える。話を聞くときに大切なことは、目を見て、関心があるということを伝えながら聞くことです。子どもは聞いてくれそうな大人に話しかけます。アイコンタクト、そして、積極的な声かけは子どもの心の発達を促す大切な関わり方です。
また、子どもは不安や恐れを感じると、特定の親しい人に体をくっつけ、不安や恐れを解消しようとします。くっついてくるという行動を、「どうしたの?」と、いつも無条件に受け入れ、そのとき必要なエネルギーを満たしてあげる。身体的にも精神的にも不安な時、いつでもくっつける保育者、家族などの大人がいることは、絶対に必要であることが分かってきました。子どもと手をつないだり、頭をなでたり、抱きしめたりと、身体接触をベースとしたサポートをすると、子どもの気持ちは落ち着いてきます。心が落ち着くと、目に見えない強い絆、愛着関係ができ、離れていても大丈夫、困ったときにはいつでも助けてもらえる、と思える信頼感につながっていきます。そうなると子どもは、安全な腕の中から外の世界に出て行けるようになります。これが、その子の人生の人との関わりの基礎になります。
(2)「人との関わり」を楽しむ(遊び)
幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説(内閣府、文部科学省、厚生労働省)には、次のように書かれています。
・自発的な活動としての遊びにおいて、園児は心身全体を働かせ、様々な体験を通して心身の調和のとれた全体的な発達の基礎を築いていくのである。その意味で、自発的な活動としての遊びは、乳幼児期特有の学習なのである。
・例えば、園児が何人かで段ボールの家を作っているとする。そのとき園児は大まかではあるが、作ろうとする家のイメージを描く。そのことで園児は作業の段取りを立て、手順を考えるというように、思考力を働かせる。一緒に作業をするために、園児は自分のイメージを言葉や身体の仕草などを用いて伝え合うことをする。相互に伝え合う中で、相手に分かってもらえるように自分を表現し、相手を理解しようとする。このようなコミュニケーションをとりながら一緒に作業を進める中で、相手に即して自分の行動を規制し、役割を実行していく。また、用具を使うことで身体の運動機能を発揮し、用具の使い方を知り、素材の特質を知っていく。そして、段ボールの家が完成すれば、達成感とともに、友達への親密感を覚える。
一般に、「遊び」というと、息抜きや余暇活動であると感じられますが、「遊び」の中には、好奇心、自発性はもとより、協調性、自己主張、自己抑制など、人との関わりで身につけておきたい能力がたくさん詰まっています。「遊び」とは、授乳や食事、睡眠、排泄などと同じくらい成長にとって欠かせないものです。筑波大学の門脇厚司名誉教授は、「子どもが小さいうちは教育権よりも先行して、遊び育つ権利を与えなければならない」として、これを「遊育権」と言っています。乳幼児にとって体を動かし遊ぶ機会が減少することは、その後の運動やスポーツに親しむ資質や能力に止まらず、意欲や気力、コミュニケーション能力の低下など、心の発達にも影響を及ぼします。
睦沢こども園では、「人との関わり」を楽しむ乳幼児の育成を目指し、遊びの工夫や保育者の働きかけを大切にしています。具体的には、友達を意識できる遊びや援助の工夫に努めています。
今後も、コミュニケーション能力の育成に向け、人との関わりの基礎づくり、人との関わりを楽しむ乳幼児の育成を目指し、努力してまいります。
(文責 睦沢こども園 園長 久我 英治)
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