「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録20周年記念連載
世界遺産を読み歩く ー学芸員通信(全12回)ー
■第4回「紀伊山地の霊場と参詣道のすごさ(1) 吉野・大峯編」
三県にまたがる「紀伊山地の霊場と参詣道」は、3つの霊場とそれらをつなぐ参詣道からなっています。具体的には、
・修験道の霊場である「吉野・大峯」
・真言密教の霊場である「高野山」
・熊野信仰の霊場である「熊野三山」
の3つの異なる宗教の霊場が、参詣道によってつながれています。このことが「東アジアの宗教文化の交流と発展を示している」とされ、本世界遺産の「顕著な普遍的価値」のひとつとして評価されました。
そのほか「各霊場の1000年以上の歴史が日本の宗教文化の発展を示す証拠であること」、「日本各地の社寺に影響を与えた地域であったこと」、「それらの信仰を支えた紀伊山地の自然環境が非常によく残されていること」も評価の対象となっています。
では、各霊場にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は「吉野・大峯」についてみていきます。
「吉野・大峯」は日本の山岳信仰をベースとして、仏教や神道、陰陽道などを組み合わせて成立した日本独自の宗教である修験道の聖地として信仰を集めてきました。大峰山脈の北部を「吉野」、南部を「大峯」と呼び、吉野山は山全体が世界遺産登録されています。
吉野山は花の吉野とされ、古代の和歌などでも桜の名所として詠われています。その背景には修験道の開祖とされる人物、役小角(えんのおづの)が桜に本尊を彫ったという伝承があります。吉野山の桜も長い間続く信仰の証といえますね。
そして、この「吉野・大峯」と「熊野三山」を結ぶ参詣道「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」は修験道の修行の道として発展してきました。大峯奥駈道は総延長約170km。奈良県の吉野山から金峯山寺や大峯山寺などを経て、熊野本宮大社までをつなぎます。
その道中では、1番の熊野本宮大社の本宮証誠殿から、75番の吉野川の柳の宿まで、75か所の「靡(なびき)」と呼ばれる行場があります。この靡で修行をしながら、大峯奥駈道を踏破するのが「奥駈(おくがけ)」と呼ばれる修行で、修験道で最も重視されるものです。加えて、この奥駆は回数を重ねることが重要であるとされています。そのため、現在でも多くの修験者たちが奥駆に励んでいます。
このような霊場と参詣道に刻まれた歴史や宗教文化が評価され、世界遺産として登録されているわけですね。次回は、和歌山県内の霊場である「高野山」をとおして、紀伊山地の霊場と参詣道に認められた価値について、お話します。
文・前田 愛佳(学芸員)
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