■聞こえない私と、聞こえる私。
◆坂本輝之さん
好きな手話「I Love You」
小指を立てて「I」、親指と人差し指を立てて「L」、親指と小指立てて「Y」。これを片手で表しています。世界共通で使用されており、手話を使う人たちが写真を撮るときにもよく使われます。
◇手話があるから友だちと話せるように 障がいの有無によらず助け合うまちが夢
「子どもの頃は、人前で手話を使うと変な目で見られることも多かったんです」と話す坂本輝之さんは、1歳になる前に高熱で聴覚を失ってからは、音のない世界を生きています。就学するまで、物に名前があることを知りませんでした。
〔手話を禁止された時代隠れて手話を覚えた〕
「昭和30年代のろう学校では正しい日本語を覚えることが重視され、発話・聴能の訓練や朗読の授業もあり、手話は禁止だったんです。先輩たちが使っているのを見て覚え、隠れて友だちと手話で話していました」。聞こえないことで近所に友だちができなかったという坂本さん。学校で友だちと手話で話すのが本当に楽しかったと言います。
就職後、坂本さんは聴覚障がいの理解を広める活動に参加。研修や会議に参加し、手話を使う仲間も増えました。「若いころから旅行が趣味で、友人たちと全国に旅回りし、東京から沖縄まで新幹線や船を乗り継いで3日かかったこともあります(笑)」
〔手話通訳があるから社会と関われる〕
目に見えない障がいだからこそ、自分から伝えていく必要があると考える坂本さんは、市へ手話通訳者派遣制度の導入や手話講習会の開催などを働きかけ、自身も講師として手話を教えています。
「聴覚障がいで困るのは、情報が取れないこと。例えば、寝ているときに火事が起こって『火事だ』と言われても気付けないのです」。だからこそ、無くてはならない存在なのが手話通訳者です。
「手話通訳者がいることで、私たちは社会と関わることができる。夜中に体調が悪くなったや時出先で事故が起こったときも頼めるよう、いつでもどこでも手話通訳が備わる社会をつくりたいです」
それが、手話を教えながら、聞こえる人たちと関わり続ける坂本さんの願いです。
「北本には、障がいのある市人を――いえ、障がいの有無に関係なく、お互いに助け合える。そんなまちになってほしいですね」
◇“聞こえない人”(聴覚障がい者)はさまざま
・ろう者…音声言語を獲得する前に失聴した人。手話を母語とする人がほとんど。
・難聴者…聞こえにくいが、聴力が残っている人。補聴器を使って会話できる人から、わずかな音しか入らない人などさまざま。
・中途失聴者…音声言語を獲得した後に聞こえなくなった人。音声で話せる人も多い。
・加齢性難聴…年を重ねて難聴に至った人。
◇Q.家族同士の会話は手話?
坂本さん:妻とは手話で、子どもたちとは妻に通訳してもらって会話しています。
◆遠藤咲幸さん
好きな手話「友だち」
両手のひらを合わせて握ります。手をつなぎ合うことから友だちを表現しています。
◇聞こえない人と文化圏が違うと思っていた バイト先で手話が使えるようになりたい
専門学校に通う遠藤咲幸さんが、最初に手話に興味を持ったのは中学生のとき。きっかけは、意外な出会いでした。
〔「あの子と話したい」から手話を覚え始めた〕
「『彩の国きずなウォーク』という、夏休みに子どもたちと学生スタッフが一緒に100キロ歩くイベントに参加していて、そこに聞こえない女の子が来ていたんです。その子と話したいなと思って手話を学び始めました」。図書館で手話の本を借りて簡単な単語を覚えて話しかけると、相手の子も、遠藤さんが人を介さず直接話そうとしていることを喜んでくれたそうです。
その後も動画を見たりして手話に触れ続けて、福祉系の進路を考えるようになり、高校3年生のときには手話奉仕員養成講習会に1年間通いました。講習会では、絵を見て表現するジェスチャーから始まり、指文字(※)、手話で自己紹介…と徐々に本格的な手話を学んでいったそうです。「手話の特徴は、日本語と文法が違うこと。頭では日本語で考えてしまうので、そこが難しいですね」。そうして講習会を修了してからも、日常生活の中で手話の勉強を続け、手話サークルにも顔を出しています。実際に聞こえない人たちと交流するようになって、遠藤さんの認識にも変化があったそうです。
※50音を指で表したもので、手話を補足する表現方法
〔言語が違っても通じ合える〕
「手話は日本語とは違う言語なので、英語と日本語のように文化圏が違うのかなって思ってました。でも、話してみるとそんなこと無くて、通じ合えるんだなって思いましたね。学校生活では出会えない人たちとも話すことができて、勉強になっています」
最後に、手話を覚えるコツについて尋ねたところ、こう話してくれました。
「私も勉強中なので…まずは語彙を増やすこと。文法は聞こえない人たちとの会話で覚えていくので、最初は『知ろうとしているよ』って意志を示すのが大事なのかな。『手話できないし』って思わずに、一つの単語だけでも話しかければ『手話を知ってくれてるんだ』って思ってくれるはず。私の今の目標は、アルバイト先に聞こえない人が来店したときに、最初から最後まで手話でご案内することです」
◇Q.日頃の手話の勉強法は?
遠藤さん:好きな歌の歌詞を手話でやってみたりしています。
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