■子どもたちの成長の場は『学校』だけにとどまらない
市長:かねてよりSTEM教育を通じたチャレンジ精神の育成を重視されてきた野村先生ですが、小学生ロボコン・富士見市大会は、学校の枠を超えて子どもたちが活躍できる場の一つであったと、大会を通じて感じました。ロボコンが与える子どもたちへの影響をどのようにお考えですか。
野村:現在の情報社会では何でもできるような感覚になっていますが、現実社会には多くの障壁があり、理想どおりにはうまくいかないこともあります。私がSTEM教育においてモノづくり活動を大事にしている理由の一つは、例えば実際に動くロボットを作ることが、実践と改善を繰り返すなかで分かりやすいフィードバックを得るのに適した学習方法だと考えているからです。ロボットが動いたときの喜びや、想定どおりにならないときの試行錯誤などを学校教育の段階でいかに体験してもらうかが重要であると考えています。加えて、根気やこだわり、集中力が必要となるロボット作りやプログラミングでは、従来の教科学習があまり得意ではない子でも輝ける機会になるかもしれません。学校の外に活躍の場を広げてあげることで、さまざまな子どもがチャレンジして披露できる場を作りたいと考え、今回のロボコン大会を提案し、実現することができました。
一方、STEM教育は問題解決能力を養うための手段ですが、今の子どもたちは満ち足りていて、まちの人の困りごとをあまりイメージできず、問題を見つけるのが難しいという課題があります。まちを知ることで好きになり、好きな場所を守る、より好きになりたいという想いが問題を発見する意識につながっていくのではないかと現場の先生から伺っています。ロボコンがきっかけでまちを好きになり、富士見市をより良くするために問題を発見する意識の醸成につながればうれしく思います。
市長:ロボコン大会では、想像力豊かなロボットと、子どもたちの自信に満ちた姿を見ることができ、素晴らしいと感じました。保護者の皆さんとしては子どもがつまずかないようにと思うことは当然ですが、社会に出れば挫折や思いどおりにいかないこともあります。ロボコンにはトライアンドエラーがたくさん詰まっていて、困難を乗り越える成功体験の機会を提供できたのではないかと思っています。また、学校教育では学力面も考える必要があります。学力テストでは直接表れてこないかもしれませんが、チャレンジ精神の育成などにより教育全体の底上げが図られ、ひいては学力としても表れてくるものだと思っています。こうした取組みを、すべての子どもたちに提供したいと考えています。
学校に来れない子どもたちに対する支援としては、小栗先生にご協力いただき、心理学を専攻し、児童の心に寄り添える大学生をスチューデントサポーターとして派遣していただき、相談支援を行っています。学校や家庭内だけではない人とのつながりやコミュニケーションの大切さをどのようにお考えですか。
小栗:STEM教育の問題解決能力など、生きる力を学ぶためには参加することが大前提で、不登校の子どもを参加につなげることがスチューデントサポーターの大きな役割だと考えています。学校を好きになってもらうにはどうしたらよいか考えたとき、大学生という子どもたちに年齢が近く、身近な存在が関わりを持つことが、社会的自立へつなげるために役立つと考えています。家族以外の社会と接点を持ち、場を広げることが大切で、人とのつながりをつくる土台であるコミュニケーション能力の育成にもつながります。
さらに学生の強みは、子どもたちと遊ぶことができることです。私自身も学生時代に不登校の子どもの家庭訪問に携わり、訪問先の子どもにトレーディングカードゲームを教えてもらい一緒に遊んだ経験があります。その経験は心理臨床家として社会人になってからも生きていて、会話が難しくてもトレーディングカードゲームで心を開いてくれた子がいました。その子は将棋にも興味を持っていて、私と将棋をするためだけに、一度も登校したことがなかった中学校の相談室に初めて登校することができました。その帰りにたまたま公園で見かけた、地域の年配の方々が楽しむ青空将棋に自ら参加して世界が広がり、再登校につながったのです。カウンセリングでは学校に来てほしいという欲目もでてしまいますが、学生は子どもと楽しく遊び、関係性を作ることができます。スチューデントサポーターは子どもと学校との中継になれる存在であり、今後は活動の分析などを行って、より効果的な活動へとブラッシュアップしていきたいと思います。
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