■「自然に包まれた動物園つくりたい」子どもの頃の夢かなえる
動物園デザイナー 若生 謙二(わこう けんじ)さん(70歳・末広町)
ライオンが寝そべり、その向こうでシマウマが草を食んでいます。ここはアフリカのサバンナを再現した大阪市の天王寺動物園です。大阪芸術大学教授の若生謙二さんは生息地に暮らす動物本来の行動を引き出す「生息環境展示」という方法を日本に初めて紹介し、新たな分野を切り開きました。
◇原点は動物図鑑
原点となった1冊の本が、小学校4年生のときに父親と買いに行った『動物の図鑑』です。そこには、サバンナやアジアの熱帯林など世界の様々な環境で暮らす動物の姿が描かれていました。
小学校で飼育部に入っていた若生少年は、日曜日ごとにひらかたパークに通っていました。お目当ては園内のモンキーランドで、図鑑で見たテナガザルが鉄パイプをつかんで跳び回る姿に「森の中を跳び交うような展示はできないものか」と考えていました。
◇〝二足のわらじ〞履き研究
その後、大学で造園学と出会い、「動物園を造ることは造園なのだ」と気づくと、少年のときの思いがよみがえり、展示方法や動物園史を研究しました。大学院を出て就職後も大学に通いながら研究する生活が続きました。
その頃、アメリカではただ動物を見せるのでなく、生息地の自然に近い環境で本来の習性や行動を観察できる動物園が現れました。会社でアメリカ市場を担当していた若生さんは長期出張に合わせて各地を訪問し、シアトルの動物園では、ゴリラがすむ熱帯雨林を再現した展示に「森の中で暮らす様子がよく分かる」と感動しました。
◇動物の暮らし見せる展示を紹介
全米に広がりつつあった新たな展示方法の動きを国内の専門誌などに紹介し、天王寺動物園では国内で初めて生息環境展示での再生を提言して、サバンナエリアなどの整備計画に携わり、上野動物園の「パンダのもり」なども手掛けました。
設計で重視したのは生息地の調査です。ときわ動物園(山口県宇部市)の「アジアの森林ゾーン」では、マレーシアで調査を行い、テナガザルが森の木の枝から枝へ移動する行動をつぶさに観察し、子どもの頃からの夢であった「テナガザルが森の中を跳び回る展示」を造り上げました。
◇動物園デザイナーが教科書に
アメリカで生息環境展示に出会って40年。これまで180か所以上の海外の動物園を訪れ、動物の福祉にもつながる展示を実現してきました。3年前には、中学校の理科の教科書にときわ動物園の展示や動物園デザイナーの仕事が紹介され、「日本でもようやくこうした展示が認められるようになりました」。
自然に向き合う場づくりは、学校や街の環境づくりにも生かされています。昨年は香里ヌヴェール学院小学校の依頼で、サクラやイチョウの木に囲まれた一角に築山を活用した遊び場をデザイン。「起伏にあふれた自然の遊び場づくりにも取り組みたい」と、人にも動物にも居心地のいい空間づくりを追い求めています。
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