■災害が激甚化 対策は早めの行動と準備
◆気象防災アドバイザー対談
實本(じつもと)正樹さん(本紙写真左)
山や街道歩きで空や雲の様子を撮影するなど、日頃から気象状況を注視している
「高槻の豊かな自然を守ると同時に、自然のリスクも知ってほしい」
太田佳似さん(本紙写真右)
雲と自然に関する話を通して、気象の面白さを伝える活動をしている
「以前住んでいた思い出深い高槻。災害による犠牲者ゼロを目指しましょう」
▽気象防災アドバイザーとは
気象予報士の有資格者で気象庁が育成認証した防災の専門家。自治体向けに専門的知見を生かして助言を行います。市ではこの度、マニュアルの策定などに対し支援を受けています。
■近年の異常気象 線状降水帯の発生で雨量増
(實本)災害につながる気象現象としては、積乱雲が重要です。入道雲が発達して、雷を鳴らし、雨を降らせる雲ですね。温暖化で、積乱雲が発達しやすい状態、つまり大気の状態が不安定になることが増えています。
台風、線状降水帯、局地的大雨などは、すべて積乱雲でできています。1つの積乱雲の寿命は30分程度で、雨を降らせると、雨と共に冷たい空気を吹き下ろし、消滅します。これだけで終われば、夕立程度で済みます。
(太田)ところが、周りに暖かく湿った空気が次々に流れ込んで来ると、雨と共に吹き下ろした冷たい空気が周りの暖かい空気を持ち上げ、次の積乱雲が発生するのです。最近、よく聞かれるようになった線状降水帯は、このようにして連続的に発生した積乱雲が次々に雨を降らせます。同じ場所で長時間、雨が降り続くことになるわけですね。
■淀川氾濫の前に支川があふれる可能性も
(實本)これが淀川流域に重なると、淀川の増水を引き起こしかねません。淀川の増水によって合流しようとする支川の水がスムーズに流入できなくなる「バックウォーター現象」が発生すると、支川の水かさが急増します。昭和28年の台風では、この現象で支川が氾濫しました。淀川の水位が上昇すると、芥川、女瀬川、檜尾川などの支川が先に氾濫する危険もあります。
一方、集中豪雨が支川の流域で発生した場合にも、淀川よりも早く氾濫することがあります。平成24年8月の集中豪雨は、雨域が東西に広がって局地的大雨が発生。床上浸水など、市内で浸水被害をもたらしました。もう少し規模が大きければ線状降水帯となり支川が氾濫していた現象でした。
■淀川の氾濫では2階も浸水 山間部は土砂災害に注意
(太田)淀川が氾濫した場合、広範囲での浸水が想定されます。また、浸水する深さが5mを超える地域も想定され、2階の部屋も浸水してしまいます。
一方で、土砂災害を引き起こすこともあります。土砂災害には、がけ崩れなどの斜面崩壊や地滑り、また谷筋に沿って発生する土石流などがあります。市北部には広く山間部が広がっていますので、土砂災害警戒区域付近に住む人は早めの避難を心掛けてください。居住地が孤立してもしばらくは耐えられる準備をしておくことも大切です。
■避難は正しい防災情報から 早めの避難行動を
(實本)大雨時に避難が必要となる人は、基本的に浸水想定区域内や土砂災害警戒区域付近にお住まいの人です。避難を判断するきっかけは、防災情報(右記)から。市や気象庁の情報サイトがおすすめです。
大切なのは、早めの行動です。特に、危険な区域では、警戒レベル3(高齢者等避難)が発令された時点で避難を検討してください。遅くとも警戒レベル4(避難指示)では必ず避難を決断してください。警戒レベル5(緊急安全確保)が出てからでは屋外への避難は危険です。台風などが接近して風雨が強まる前や、明るいうちに、複数人で避難することが望ましいです。
(太田)避難先は、市の指定された避難場所でなくても、安全な場所に住む親戚、知人、あるいはホテルなどでも良いです。事前に考え、親戚・知人には声掛けしておきましょう。
■バイアスにとらわれず 平時の準備が重要
(太田)災害が起こってから慌てても間に合いません。平時にどれだけ心と物の準備ができていたかが全てです。
ハザードマップで自宅の危険性を把握する、防災グッズを準備しておく、防災講座などに参加し知識や意識を高めるのも良いでしょう。マイタイムラインを家族と共に作って、いざというときの避難先、連絡方法を決めておく。そして何より、こうなったらとにかく避難するという「避難スイッチ」を決めておくことが大切です。
(實本)人は自分だけは大丈夫と思いがちですね。これは、安全性(正常性)バイアスと呼ばれる心理です。今、自分が普通に生活していられる、これまでに被災したことがないなど、この心理は誰もが持つ傾向がありますが、数十年に一度、数百年に一度の災害が必ずやって来るのです。バイアスにとらわれず、しっかりと備えを心掛けてほしいです。
●Advice
(1)避難は親戚、知人宅でも可
(2)浸水する中での避難は危険
(3)土砂災害からも早めに避難
浸水している場合、外に出て避難することは危険です。そうなる前に分散避難や避難所への避難をしてください。
(1)河川の水位にも注意して
(2)警戒レベル4までに避難を決断
(3)避難は声を掛け合って徒歩で
防災情報をしっかり確認し、避難のタイミングや避難先を決断してください。家族や近隣の人にも声を掛けて協力しましょう。
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