■今後の課題
◇人手が足りない中で、今後、共同作業をどのようにしていったらいいのか。
[佐藤]
田んぼやため池などは、減災にも貢献しています。例えば、汐見台近くの田んぼの阿川地区の場合は、雨水がまず七浦堤に流れ、堤の水が多くなると田んぼに流れてくる仕組みになっています。
水が低い方に流れるのは当たり前のことですが、多すぎれば田んぼが冠水する被害につながります。
田んぼが冠水すれば、住宅地や道路も冠水する恐れが出てきます。水が一気に田んぼに流れないように、ご家庭で一時雨水を貯めるためのタンクを用意していただくとか、工夫をしていただけたらと思います。
地域の消費者と農家が一体となって、それが環境保護や減災など、いろいろなことにつながってくる。農業は、皆さんに育てていただいていると思っています。
[渡邊]
私の小さい頃は苗も手植えでしたから、田植えの時には、家族や親せき、隣近所の人たちに手伝ってもらい、とてもにぎやかだったんです。水路の掃除なども、みんなが出てワイワイとやっていました。それを楽しみにしている人もいました。
昔は、じいちゃん、ばあちゃん、長男夫婦も一緒に生活していて一緒に農業をしていましたが、震災後は特に核家族化が進み、若い家族などの参加が減りました。
所有地は自分たちで管理できますが、水路や農道など公のところは人手が必要なんです。
菖蒲田浜の場合は、被災して半分くらいの家が地元を離れています。今は農家の4分の1くらいしか参加しなくなってきています。田んぼがあるために逆に困っているという人さえいます。
農家の高齢化が進み、人手が足りない中で今後、共同作業をどのようにしていったらいいのか、大きな課題です。
[佐藤]
震災前、勤めながらも農業ができたのは、田植えとか稲刈りなどの大掛かりな作業は他に頼むにしても、その中間の時期の稲を育てることや草刈りなどは自分でしていた人が多かったんです。
水路の掃除などの共同作業にも参加していました。
[渡邊]
今は、これらの作業の一切を任せるようになってきました。
[佐藤]
震災以降、離農者が多くなり農地の受け手として法人化されたのがファーム七ヶ浜なんです。
[渡邊]
他の地域では、地域の人と一緒に活動しているところもあると聞きます。地域の人への声がけとか、これからみんなで意見を出し合い、検討していかなければと思っています。
■新たな希望
◇人を引き寄せられるような体制がとれればいいのかな。
[佐藤]
ここ2年でファーム七ヶ浜に若い3人が新たに加わりました。その人たちは農業の経験がないけれども楽しい。汚れたり、大変な作業もあったりしますが、みんなで作業するのがうんと楽しいと言うんです。
[渡邊]農業の楽しさを逆に彼らから教えられることもあります。大事に育てていかないとね。ファーム七ヶ浜では、誰でも農業に取り組むことができるよう写真入りの作業マニュアルや栽培マニュアルも作りました。
組織として互いに支え合い、そういう人たちがもっともっと増えて人を引き寄せられるような体制がとれればいいのかな。
[佐藤]
ファームだけではなく、七ヶ浜全体で5年10年先を見据えて後継者を育成していかないとね。
新しい人に来てもらうためにも、米など立派なものを作るだけでなく、経済面など後継者をきちんと保証できる農業経営をしていかなければだめだと思います。
農業で収益を上げ、農業者にきちんと還元できる仕組みも作っていかないとね。
まずは言葉で伝えるより、取り組んでいる今の私たちを見てもらうのが一番わかりやすいのかな。
野菜クラブの皆さんなど野菜を作って頑張っている人たちもいます。今、町内で耕作されないで放置されている農地がたくさんあります。
自分が食べるものを自分で確保したり、野菜や花を作ったりして農地を活用してほしいですね。
七ヶ浜で作った作物を少しでも食べてもらって、町内の人も一緒になって農業について考え、一緒に盛り上げていただければと思います。
◎自然がすぐそばに感じられるステキな場所
ファーム七ヶ浜 理事
水越 孝太郎(みずこし こうたろう)さん(塩竈市)
今までの経験から、自分や自分の周りの人間の生活基盤のもろさに気づいたのが、農業に携わることを決めたきっかけでした。
今、自分が住んでいる場所にはない、自然がすぐそばに感じられる七ヶ浜が本当にステキな場所だと、毎日しみじみ思っています。米づくりや農業が、子どもたちの将来の選択肢のひとつになっていけばいいですね。
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