■梶内隊員(就農関係)
「地域おこし協力隊」の梶内です。皆さん「鵺(ぬえ)」をご存知でしょうか?万葉集にも登場し、平安時代には既に伝承されていた妖怪です。いくつもの動物を組合せた奇妙な姿で描かれ、鳴声はその不気味さから不吉なものの前触れとして恐れられてきました。その「鵺」が我が集落には存在しているのです。
移住前、春先に集落を訪れた夜中「ヒョー、ヒョー、キィー」と金属音のような風切り音のような、奇妙な音が聞こえてきました。風で家か山の木が鳴っているのだろうと思いましたが、その音は昼には聞こえず、決まって深夜から鳴り出し、明るくなる頃には聞こえなくなりました。何度か耳にするうちに音は移動し一定のリズムを刻んでいることが分かりました。およそ動物の鳴声とは思えない音でしたが、音の動く速さと高さから鳥ではないかと調べると、その正体は「トラツグミ」だとわかりました。夜中に縄張りを主張して飛び回るそうです。同時に「鵺」にまつわる話もたくさん出てきました。「鵺」と「トラツグミ」が結びついた瞬間は、古の秘密を知ったような喜びと、平安の人もあの奇妙な音を聞いていたのかと感慨を覚えました。同時に「里山には妖怪にまつわる伝承が数多く存在し、それは自然や自然現象に対する畏い怖ふの表れだ」という言葉を思い出しました。以来「鵺の声」は僕にとって吉兆となりました。草で編まれた美しいカヤネズミの巣、耕起中の田圃から這い出てきたキュートなトガリネズミ、鳥の巣を襲うイタチの眼差し、輝くようなジムグリの幼体、堂々としたオニヤンマ、飛び交う蛍の光……。集落はまるで宝石箱です。里山では人間の活動も含めた豊かな生態系が形づくられてきたと聞きます。その豊かな生態系の一部として動物たちにそっと寄り添った暮らしを考えていきたいと思っています。
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