撮影場所:県農業総合研究センター(山形市)
■キーワード 農業の新たなビジネスに挑戦
酪農における6次産業化やバイオガス発電に取り組む濱田篤さんと、農業におけるシーオーツー削減や廃棄ロス削減に取り組む遠藤久道さんに、農業を起点にした新たなビジネスについてお聞きました。
▽濱田篤(はまだあつし)さん(米沢市)
1980年生まれ。米沢市出身、同市在住。はまだ牧場の3代目として酪農を営む。酪農家ならではの6次産業化に取組み、新鮮な生乳を加工したこだわりのジェラートを開発し、首都圏やオンラインショップなどで販売。また、酪農の臭気問題を解決したいとの思いから、乳牛のふん尿を活用したバイオガス発電事業にも取り組んでいる。
写真キャプション:生乳を低温殺菌することにより、生乳そのままの味を楽しめるジェラートを開発した濱田さん。自社の生乳を使って自分たちの手でこだわりのジェラートをつくっている。キッチンカーでの対面販売では、ジェラートを食べたお客様から「おいしい!」と言ってもらえることがうれしいという。
▽遠藤久道(えんどうひさみち)さん(酒田市)
1982年生まれ。酒田市出身、同市在住。家業の農業を継ぎ、2017年に農業法人・株式会社農園貞太郎を設立。「地球環境によい農産物生産」を掲げ、安心・安全で、おいしい農産物の生産とともに、農業におけるシーオーツーの削減、廃棄ロスの削減に積極的に取り組んでいる。企業とのコラボレーションによる商品開発も多数。
写真キャプション:「シーオーツー削減米・野菜」をはじめ、傷んださくらんぼなどから作ったアルコールを使用した除菌ウェットティッシュ、製粉技術にこだわった米粉などを開発した遠藤さん。“SHONAI PRIDE(ショウナイプライド)”は、農園貞太郎のオリジナルの認証制度で、一定の基準や品質を満たす農産物に表示している。
■新たな視点で広がる農業の可能性
酪農を営む濱田さんは、自社生産の新鮮な生乳を加工し、こだわりのジェラートを開発しました。
「65度30分の低温殺菌により、牛乳独特のにおいを抑え、濃厚でなめらかな味わいを実現しました」。
ジェラートをキッチンカーや首都圏のお店、オンラインショップなどで販売すると、そのおいしさが評判になりました。商社からの引き合いがあり、今後は海外への輸出も考えているそうです。
一方、農業を営む遠藤さんは、米や野菜の栽培におけるシーオーツー(二酸化炭素)削減と、農林水産省の実証事業による削減量の見える化に取り組みました。
「慣行栽培に比べて、栽培時のシーオーツー削減に取り組んでおり、例えば、『シーオーツー削減米』は、通常のお米に比べ、1キログラム当たりシーオーツーを1.9キログラム削減しています」。
地球温暖化に向き合う取組みは、大手企業の目に留まり、コラボ商品の開発や、販路拡大につながっているそうです。
■カーボンニュートラルを追い風に
「遠藤さんは、どんな方法でシーオーツーを削減したのですか。」と興味津々の濱田さんに、遠藤さんが応えます。
「例えば、稲の慣行栽培しでは、土壌改良としてもみ殻が使われますが、その際、土壌の微生物の分解によりシーオーツーが発生します。一方、もみ殻を独自の装置で炭化し、分解しにくいバイオ炭とすることで、土壌改良効果はそのままに大気中へのシーオーツー放出を減らすことができます」。
濱田さんが感心して応えます。
「取組みを商品の付加価値にし、販路を開拓する遠藤さんの企画力に驚きです。環境を守る視点は、今後の農業分野の鍵になると思います」。
濱田さんは、酪農の臭気問題を解決したいとの思いから、バイオガス発電事業を始めたそうです。
「乳牛のふん尿や食物残さなどを密閉されたタンクで発酵させ、バイオガスを生み出し、発電する仕組みです。臭気を抑えるとともに、カーボンニュートラルに貢献できます」。
■アイデアを形にする秘訣
シーオーツー削減米のほかにも、規格外のお米を製粉し発酵させたライスチーズなど、数々の商品を生み出した遠藤さんが、その秘訣を話します。
「農業分野に限らず、さまざまな企業や研究機関と連携することで、アイデアを形にできました」。
濱田さんが共感して応えます。
「大学時代に音楽活動に熱中し、音楽イベントの立ち上げに関わりました。人とのつながりの大切さや物事の進め方を学び、その経験が事業の立ち上げに役立っています」。
「実は私もバンドマンです。心が折れそうなときは、ギターを弾くんですよ(笑)。」と遠藤さん。思わぬ共通点から、話に熱が入り、アイデアが次々と溢れます。濱田さんが遠藤さんに呼びかけます。
「子どもたちが農業を仕事に選びたくなるように、私たちの世代が農業の可能性を広げていきましょう」。
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