■心臓病に効く青カビの話
▽高コレステロール血症と動脈硬化
日本人の三大死因の一つに心臓病があり、その多くは冠動脈硬化症が進行して心筋梗塞で倒れる人が多いからです。動脈硬化症の元凶としてコレステロールが槍玉に挙げられますが、コレステロール自体は細胞膜の成分となる重要な物質です。コレステロールは肝臓に運ばれて処理され、一定の値が保たれますが、善玉コレステロールと呼ばれる高比重リポタンパク(HDL)は多いほど良いのですが、悪玉コレステロールと呼ばれる低比重リポタンパク(LDL)が高くなる高コレステロール血症が続くと、コレステロールが血管壁にたまって動脈硬化症を引き起こします。心臓の冠状動脈の場合には急性心筋梗塞を起こしてしまいます。食べ過ぎや運動不足でも悪玉コレステロール(LDL)は増えますので、日常生活での注意が必要です。
▽青カビからスタチン発見
青カビから発見されたペニシリンに刺激された遠藤少年は長じて、青カビから高コレステロール血症に効く物質を見つけだし、「動脈硬化のペニシリン」発見と絶賛されました。
三共製薬(現・第一三共)の遠藤章グループは約6、000種もの菌類を調べ尽くして、ついに米に生えた青カビからコレステロール合成を阻害する商品名@メバロチン(一般名プラバスタチン)を開発し、1989年日本発の高コレステロール血症薬として登場しました。さらに、アメリカの巨大製薬会社メルクも三共から入手した情報を基に大規模の研究に着手し、1991年@リポバス(シンバスタチン)が名乗りを上げ、その後も各社の研究が続き合計6種もの「スタチン」が顔をそろえました。(表)一方で、これらの「スタチン」服用中に、手足の筋肉痛で始まる横紋筋融解症という合併症の起ることが報告され、服用後は定期的な肝機能、腎機能検査が必要とされましたが、2019年末のアメリカ心臓病協会による声明では「スタチンによる副作用はまれであり、その有用性はあらゆる副作用を上回る」ことが明記されました。
青カビというと、最近腎不全の発症で大きな問題になっている紅麹サプリメントに誤入したらしいという「ペブルル酸」も、実は青カビからペニシリンに次いで発見されていたマラリヤの特効薬なのです。
表)先発薬スタチンの各種
▽後発薬・ジェネリックの追従
先発医薬品の特許が切れた後(主に20年)に、有効成分、投与経路や規格などが同一であるとして、臨床試験などを省略して市販される医薬品を後発薬・ジェネリックと呼びます。一番最初に上場された@メバロチン(一般名プラバスタチン)を例に挙げますと、20年後にはアルセチン・オリビス・タツプラミン・プラバスタン・プロバチン・メバトルテ・リダックMなど、なんと25品目もの後発医薬品が市販されているのです。新薬の研究・開発費がかからないため、一般的に先発薬に比較して薬価が半額程度で済みますので、厚生労働省も医療費節減の見地から平成11年に後発医薬品・ジェネリックの使用を促す通知を発令し、PRカードを配付しているほどです。さて、コレステロール代謝の基礎研究では1980年に、LDL受容体の遺伝学的な研究で1985年にノーベル生理学医学賞が授与されていますので、次は日本発の動脈硬化症治療薬発見への受賞が期待されるところです。(院長 川田志明)
新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む
著者:遠藤 章
岩波科学ライブラリー
ISBN:9784000074636
リンク先:遠藤章ウェブサイト
※遠藤章さんは6月5日に90歳で死去されました
※詳しくは本紙をご覧ください。
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内科、外科、小児科、小児外科
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