10月、令和5年度東温市秋祭りが開催された。今年は8日に重信地区、15日には川内地区の2日間の日程で開催された。
祭りに先立ち開催された東温市獅子舞大会では2日間で11の獅子舞保存会が参加し、これまでの練習の成果を披露し、観客を魅了した。
祭り当日、太鼓の音が夜明け前から市内に響く。今年の祭りは4年ぶりに通常開催した地域も多くあった。時折笑顔を見せながら、真剣な眼差しで神輿を舁く大人の姿に刺激され、子どもたちも獅子舞や太鼓で力いっぱい表現した。
市内で演じられる獅子舞の中には何百年もの間受け継がれているものがある。今年も秋祭りが人と人とを繋ぎ、新たな伝統を創った。
次ページでは今年、新たな歴史を創った2つの地域に密着した。
◆次世代に繋ぐ 子どもたちに獅子舞を
秋祭りの1週間前、西岡公民館に子どもたちが多く集まった。「やっと獅子舞ができる、このときを待ちわびていました」と話す西岡獅子舞保存会指導者の丹生谷康広(やすひろ)さん。
「西岡獅子舞保存会」は4年前に立ち上がったばかり。「ずっと昔から子ども会が獅子舞のお世話をしていましたが、保存会で担っていきたいと地域に伝え続けてきました」
自身も子どもの頃から獅子舞に参加してきた分、思いは強い。「4年前、西岡獅子舞保存会が立ち上がったころ、各地で祭りが中止になりました。これからというときだったので悔しかったです」
今年ようやく獅子舞保存会として活動を始めることができた。「子どもたちも指導者も久しぶりの獅子舞。一からの始まりです。獅子舞大会には間に合いませんでしたが、祭りでこれまでの練習の成果を披露できたらと思っています」
公民館で練習中、子どもたちは自分の出番以外にも太鼓に合わせて踊っている。「完璧にするのではなく、獅子舞を楽しんでほしい。続けたいと思うには、まず楽しいことが一番です。楽しいと思える雰囲気や環境をつくって、またやりたいという気持ちに繋がればと思います」
太鼓を担う指導者の花山桃香(ももか)さんは西岡の出身で、今年は県外から祭りに参加した。「祭りに参加すると帰ってきたと感じます。大学生ですが、指導者として10年になります。西岡では女子も獅子に入ります。楽しかった思いを、小中学生のみんなにも感じてもらえたら」と花山さんは笑顔で話した。
三奈良会と下林令和会は宮出しや宮入りをともに行ってきた。今年、1台の神輿が数十年ぶりに新調された。新調された両会の神輿の本体といわれる本神輿は白木で作られ、装飾もシンプル。
祭りの2日前にはお披露目会が開催された。両会の子どもたちの巫女の舞や獅子の演舞が披露され、神輿の完成を喜んだ。
何十年も使っていた古くなった本神輿をなくし、それぞれが所有する2台の神輿にすることもできたが、両会は新調することに決めた。下林令和会の森晃一(あきひと)さんは、「本神輿は両地区の橋を渡す役目の意味も持っていると思います。長い間、両会で切磋琢磨し合ってきた分、ここで終わらせてはいけないと思いました。自分たちの親から繋いできたものを今度は子どもたちにも伝えていくことが私たちにできることです」と話す。
今年は、市内ほとんどの地区で祭りや獅子舞が復活した。祭りや獅子舞は口承によるものが多く一度途切れると、再び同じものを復活させることが難しい。古くからこれまで継がれてきたものもあれば、時代に合わせて変化してきたものもある。
時代や人に合わせて変化したものも、いずれ伝統として受け継がれていくかもしれない。伝統を「継承」しながら新しいものを「創造」する瞬間を私たちは秋祭りで目の当たりにした。
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