■バイオリンを科学する
近藤大智さん
「バイオリンがどのように音を発しているのか、気になったことはありませんか」。そう問い掛けるのは、明和高校のSSH※1(スーパーサイエンスハイスクール)部物理・地学班に所属し、バイオリンの研究を進める近藤大智さん(18歳)。
近藤さんとバイオリンとの出会いは、中学生の時。祖父から、約60年以上愛用されたバイオリンを譲り受けます。芸術的な造形に惹かれ、高校の合格祝いにバイオリン修理を選ぶほど、大切にしていました。「鈴木バイオリン製造(株)(以下「鈴木バイオリン」)に修理を依頼し、くすんでいた表面が、ピカピカになっていて感動しました」と振り返ります。
高校一年の冬、近藤さんは名古屋で開かれた演奏会を訪れ、プロの演奏に心を打たれます。「研究の進捗に悩んでいた時期で、自分のやりたいことを見つめ直すきっかけになりました」。バイオリンの音色に魅了された近藤さんは、鈴木バイオリンの工房でのインターンシップを希望します。「バイオリンのひょうたん形は、演奏中、弓が当たらないように改良されていった結果だそうです。一見装飾にも見える板の形やf字孔※2も、バイオリン全体で音を振動させて拡散するために必要な機構だと知りました」。インターンの経験から、バイオリンの構造を深く理解したいと考え、研究テーマにバイオリンを選びます。
現在、近藤さんが進める研究は、バイオリンの板が振動する一定の音域の調査と、振動を電圧に変えて可視化する装置を用いたバイオリンの肩当ての是非を問う検証など。「大切なバイオリンを壊さず研究に使いたい」と、工房の職人から教わったことをヒントに振動を用いた分析手法を考案しました。板の音響調査には分解を前提とする方法が多い中、近藤さんの手法はバイオリン自体を振動させるため、「品質や歴史的価値の保護の観点からも有効ではないか」と唱えます。「研究を進めるほどに、芸術的な造形の中に機能的に洗練された構造を秘めていることが分かります。音響の研究を続け、仮想空間内に現実と同じ原理で音を奏でるバイオリンを再現したい」と、今後の目標に目を輝かせます。
8月7日には、全国から約200のSSH校が集まる発表会に同校代表として参加するほか、9月4日には、日本音響学会での研究発表会を控える近藤さん。将来の夢は「バイオリン職人になること」と話します。「造形に惹かれて出会い、本物の音色に心打たれて研究を始めました。研究を始める大きなきっかけになった大府市のバイオリンの里を目指した取り組みには感謝しています。バイオリンの芸術性、音楽性を科学的なアプローチで理解を深め、最高のバイオリンを自らの手で作り上げたい」。研究は夢に向けた一歩と語る近藤さんの飽くなき探求は続きます。
※1 科学技術系人材の育成を目指して文部科学省から指定されたSSH校で、物理・化学・生物・数学などの研究を行う部活動
※2 バイオリンなどの弦楽器の弦が張られている表板の中央付近の穴。楽器内の空気振動を外に伝える役割をする。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>