■「せん妄」について
精神科 部長医師:佐部利 了
◇せん妄の症状とは
身体疾患の治療のため、多くの患者さんが総合病院に入院します。ところが時折、入院前にはなかった精神症状によって、本人の言葉や行動が変わり、家族も困惑することがあります。
近年、入院患者さんは高齢化しており、認知症との診断までは至らないものの、物忘れや片付けが苦手になっていた等、さまざまなケースがあります。入院してしばらく普通に話せていたのが、夜間不眠と興奮で、大声を出したり、幻覚妄想を伴い、持続点滴・鼻管を自分で抜いたり、会話がままならなくなり、医療者への暴力も時に出現します。
こうした精神症状が「せん妄」と呼ばれます。
◇せん妄状態の気持ち
なぜ、このような現象が起きるのでしょうか?人間は常に周囲の状況を感じながら自分の行動をしています。患者さんが「病気になったので入院し、治療を受けないといけない」と考えられている時は、多少痛みや苦痛があっても、医療スタッフの治療行為を受け入れられます。
ところが「自分が病気になった、大きな怪我を負ったと理解できてない」としたら、医療行為は、恐ろしく拷問のようなことに勘違いされてしまうのでは、と想像することができます。
◇その原因と対処について
自宅とは大きく異なる病院環境と、感染対策で家族面会も減り、一層ストレスフルとなっています。
一過性に認知機能が低下し、血圧・体循環や血糖・電解質・ホルモンなどが安定化し改善する場合はありますが、身体疾患治療終了後でも、若干の認知低下が残ることは少なくありません。
対症的には、睡眠導入剤(メラトニン系・オレキシン系)、抗精神病薬(クエチアピン・リスペリドンなど)を少量内服から用いていますが、精神症状コントロールは、容易でない場合もあります。
◇強度のせん妄への対処と課題
飲水や摂食の低下に伴う脱水や低栄養、飲み薬を拒否、創部を触り損傷することもあります。時折、重大事象として、患者さんが一人でトイレに行こうとし、誤って転倒骨折することもあります。夜間の人員が手薄な時間帯で、病状理解の乏しい患者さんが複数いる事があります。病棟では入院患者全てに身体状態の変化に応じて、酸素吸入・点滴調整・薬剤投与や、その他の検査測定や処置をしています。
また、痛み止めやトイレ歩行の手伝い、おむつ交換等、スタッフの業務は多様です。スタッフ自身に余裕がない時に、患者さんが思う通りにならず、スタッフに怒ることもあります。
患者さん自身が体の状況を理解できないまま、マイペースで動いてしまうことが続く場合、その説得をスタッフが常にし続ける訳にもいきません。
そうした時は、やむを得ず「身体的拘束」という手段を用いることがあります。本来、強制的な形は取りたくないですが、複数スタッフで「転倒など危険を避けるために、緊急で、他に手段がなく、一時的ならば実施もやむなし」と協議・判断した上で、「身体的拘束」を実施します。
この「身体的拘束」に関し、軽い程度・短期間の実施、もしくはできるだけ実施しないため、病院全体で、拘束の状況分析・定量化を行い、どのように進めるべきかを話し合える体制づくりを始めました。
認知症疾患の既往がないにも関わらず、「せん妄」が発生する現実について、市民の皆さん全てに知っておいていただくべきと常日頃感じているため、今回お伝えしました。
皆さんにとって少しでも快適な入院生活となるよう、これからも対処していきます。
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※詳しくは本紙14ページの二次元コードをご参照ください。
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