市の森林面積は市域全体の約83%を占めています。愛知県の森林面積は県域全体の約42%ですので、新城市は森林に囲まれた街であることが数字からも分かります。
森林の割合が多いということは、自然に恵まれているといった良いイメージもありますし、森林の土壌が雨水を蓄え川の流量を安定させて、洪水や渇水を和らげる役割も果たしています。まさに自然のダムです。反面、春先に多くの人が悩まされる花粉症は、この森林に多く植樹されたスギやヒノキの花粉が原因となっています。
今回の特集では森林に焦点をあて、日々、研究や活動をしている愛知県森林・林業技術センター(山吉田地区)と千年の杜の推進をされている横浜ゴム(株)新城工場(野田地区)へお話を伺ってきました。
■愛知県森林・林業技術センター
山吉田地区にある愛知県森林・林業技術センターは、森林や林業に関する試験研究、林業従事者の研修、林木育種などを行っている県の施設です。多くの試みをしているセンターで、今回はエリートツリーとセンダンについて聞きました。
◇エリートツリー(特定母樹)
広大な敷地内にある研究ハウスでは、成長が良く開花したときに放出する花粉の量が少ないスギを育て、種子を生産する研究を行っていました。スギやヒノキなどの中で成長など性質の良いものを精英樹といい、精英樹同士を掛け合わせたものをエリートツリーというそうです。このエリートツリーの中で花粉量が従来のものより半分以下のものを特定母樹といい、センターで育てているエリートツリーは全て特定母樹とのことでした。
センターでは、このエリートツリーの苗木を国の研究機関から購入して種子生産・研究をしています。そして国の研究機関では、エリートツリー同士の交配を繰り返すことで、より良いものを選抜していくようです。
育てていく中で大変なことは、ハウス外の花粉と混ざらないように注意しながらハウス内を自然に近い環境下にして育てていることでした。ハウス内ですので雨の恩恵は受けられず、肥料を混ぜた決められた分量の水を自動かん水していました。また、各所にセンサーが設置されておりハウス内の状況を細かく記録していました。
自動かん水装置やセンサーが完備されているので、自動化されたハウスかと思いましたが、成長の観察など、職員の目で丁寧に観察されていました。取材でお伺いした時期は7月の暑い時期で、ハウス内は過酷な状態でした。また、種子は1年に1度しかできないものなので、1つ1つの作業が貴重な作業となります。
◇エリートツリーの発育スピード
花粉の量が少ない他に、現在育てているエリートツリーは成長が通常の約1.5倍の早さとのことでした。私たちは苗木を山に植樹すれば、あとは勝手に木が育つものだと思いがちですが、実際は違います。苗木が周りの雑草などより高く育つまでは、その雑草などを根気よく下刈しないといけません。成長が早ければその分、下刈作業が減るメリットがあります。
◇成長が早い広葉樹 センダン
センターでは成長が早く活用範囲の広い広葉樹の研究にも取り組んでいました。その木は早生樹のセンダンです。
センダンは花粉症の原因にはならないようですし、成長が一般的な樹木よりかなり早いようで、3年で樹高が約5mになります。
成長が早いということは、先述の下刈の回数が減る以外にも、光合成による二酸化炭素固定が良く、現在問題になっている地球温暖化防止にも貢献できるのではないかと考えられます。
センター内の圃場では、今年発芽した約30cmの苗木がコンテナに植えられ、育苗試験を行っていました。
実際に、その苗木を県内の試験地として利用している森林に植栽し、成長過程の現地調査にも取り組んでいました。場所によっては、虫害や寒害の影響もあるそうで、簡単には前に進まないとのことでしたが、試行錯誤しながら着実に前に進んでいるようでした。
◇木目が美しいセンダン
センダンで作られたテーブルが、事務室の傍らに置いてありました。
一般に人気のあるケヤキに負けないほどの美しさがあり、高級家具として利用できるのではないかと感じました。またセンダンは成長が早いので、ケヤキよりも早く伐採ができ製品化できるとのことで、大きなメリットとして感じられました。
■新城市の森林内訳
市の森林面積は市域全体の約83%を占めており、その内71%がスギ・ヒノキです。愛知県全体ではスギ・ヒノキの占める割合は55.6%であり、愛知県全体に対して本市は15.4ポイント高くなっています。
愛知県全体よりもスギ・ヒノキの割合が高い新城市では、スギ・ヒノキ林を適正に管理していくことが不可欠であることが分かります。
出典:第2次新城市森づくり計画
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