■虫垂炎について
津島市民病院 外科部長 新宮優二(しんぐうゆうじ)
◇はじめに
今から25年前、右下腹部に痛みがある患者さんには、虫垂炎を疑い、直ちに手術を行っていました。近年では、診断技術の向上に伴い、虫垂炎の診断だけではなく、その重症度評価まで可能となり、それに合わせて治療方針もいわゆる“点滴で散らす”という治療、非侵襲的な手術(腹腔鏡手術)、点滴で散らした後、計画的待機的手術など、多様な治療法から選択されるようになりました。そして、国内外の学会から急性虫垂炎の診療ガイドラインが策定され、虫垂炎治療の方向性が示されています。
今回は、最近の虫垂炎治療について、診療ガイドラインの内容とともに説明します。
◇点滴で散らすor手術
まず、虫垂炎と診断された場合、点滴で散らすことを試みるか、すぐ手術を受けるかという選択を迫られます。ここで、診療ガイドラインでは、以下の場合に手術を受けたほうがよいとしています。
・炎症が激しく虫垂に穴が開いている(穿孔(せんこう))
・周りに膿溜まりを伴っている(膿瘍(のうよう)形成)
・硬便が虫垂につまっている状態
・妊娠中の女性が虫垂炎をおこしたとき など
そして、それら以外の場合では、点滴で散らすという治療を成人・小児を問わず効果的な治療法として推奨しています。ちなみに、前述したような状況を除いた虫垂炎に対する点滴治療は、手術治療と比べると、治療にともなう合併症が有意に少なく、治療期間も短くなるとされています。ただし、点滴で散らした後、5年間の虫垂炎再発率は35%ほどといわれています。
実際の臨床では、点滴で散らす治療は概ねガイドラインの方向性と相違はない印象です。しかし、その後の再発を考慮し、最初から手術を望まれる方もいます。また、穿孔や膿瘍形成を伴う虫垂炎に対し手術を行う場合、おおがかりな手術となってしまう可能性が高いときは、まず点滴で散らすことを試みることもあります。ガイドラインはあくまで推奨なので、個々の虫垂炎の程度や社会状況にあった治療法を提示しつつ、ともに相談しながら治療方針を決定させていただきます。
◇手術の場合、どのような方法?
手術では炎症を起こした虫垂を切除・摘出しますが、その内容を、開腹手術(腹部を切開し直視下に行う手術)で行うか、腹腔鏡手術(3,4ケ所孔をあけ腹腔鏡というカメラで腹腔内を映し行う手術)で行うかに分かれます。
ガイドラインでは、術後の痛み・術後入院期間や社会復帰までの期間・コスト等のあらゆる面で、腹腔鏡手術が開腹手術より優れており、成人・小児を問わずいかなる重症度の虫垂炎においても、腹腔鏡手術が勧められています。また、リスクの高い患者さん(肥満・高齢・併存疾患を持つ患者さん)や妊娠中の方においても、同様に腹腔鏡下手術が好ましいと示しています。
現状は、医療施設ごとの方針に従って選択されていますが、当院では原則腹腔鏡手術を行っています。
◇その他、散らした後の待機的手術
点滴で散らした後、再発する可能性があります(前述のとおり35%ほど)。また、炎症を点滴で改善させた状態での手術は、より安全に行うことができます。これらの理由で、点滴でいったん散らした後、待機的に腹腔鏡手術を受けていただく方もいらっしゃいます。患者さんのご希望に応じて対応させていただきます。
◇おわりに
最近のガイドラインをふまえ、虫垂炎の治療について述べてみました。いつの時代でも身近な疾患ですが、その治療は徐々に変わってきています。その中で、今回のお話が適切な治療につながる一助となれば幸いです。
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