■桜の危機を救う取り組み
桜も生きものだ。長く生きれば人と同じように患うし、老化する。そうした中で、古来より人々は桜を守るためにさまざまな取り組みを行ってきた。今回は、現在桜の普及と保存に尽力している(公財)日本花の会の寺井氏に話を伺った。
(公財)日本花の会
花と緑の研究所
上級研究員・樹木医・グリーンアドバイザー
寺井 海樹人(てらい みきと)氏
◇桜の名所づくりを通じ潤いのある環境づくり
日本花の会は、1962年に創立し、「桜の名所づくり」と「花のまちづくり」を通じて、潤いのある環境づくりを推進しています。河合良成(当時のコマツ社長)が花を愛し、「花の魅力で人々の心を和らげたい」という思いで立ち上げ、多くの会員の皆さんに支えられて今日に至っています。
桜の名所づくりでは、国内外の桜によるまちづくりを計画している方々に桜の苗木を供給し、その後のアフターフォローも行うなど、活動を支援しています。各地から届く開花の便りは、何よりも嬉しいものです。
区とは、さくら基金に当会が関わっていたほか、区内の公園に当会で作出をした「舞姫」を供給したり、皇居外苑や北の丸公園にもソメイヨシノを含め36品種76本を供給したりしています。
▽舞姫
八重咲で淡紅の花をつける。(公財)日本花の会創設50周年に作出。4月上中旬に開花する。花が先行して開花するためボリューム感があり、エドヒガン系のため、病害虫の被害に強く長命であることが期待されている。
舞姫は千鳥ヶ淵公園にも植栽されている。今年の春は、左奥のソメイヨシノとの色の対比にも注目してみてはいかがだろうか
◇樹木医として「診る」ということ
私は、樹木医として主に「都市の樹」を診ています。「樹木医」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、樹木も「生きて」いますから、人と同じように病になることもあります。そして都市の樹木というのは残念ながら生育しやすい環境にあるとはいえません。樹木の健康は「樹勢」と「樹形」や「外傷の有無」などで判断し、診断結果に応じた提案をしています。
◇診断の流れ
樹木の状態を「診断する」には何段階かのステップがあります。まずは点検・観察。個々の状態を見て正しくチェックしていくことが大事です。そのためには1本1本の樹を識別することが必要なので、データベース化していくことから始めます。
点検で異常が認められた場合には、木づちや鋼棒を使用して外観診断を行います。木づちは幹をたたくことで危険度と健全度を判別することができます。たたいた際の音で内部の見えない「空洞」や「腐っている部分」を見抜きます。鋼棒は空洞や地中に向かって刺し、「根が腐っていないか」「どのくらい腐っているか」を確認するものです。
診断の基本は目視です。樹勢とは「枝葉、幹、根の伸長が順調である状態」かどうか、樹形とは「枝葉、幹、根から作り出される外形、外観」をいいます。これらは対象の第一印象で評価し、感じた疑問を詳しく探っていきます。
次に、外観診断の結果に基づいた「処方」をします。回復の可否にかかわらず、状態を丁寧に伝え、依頼者がどのような意向をお持ちかをよく聞き取り、希望に応じて対処法を提案します。診断結果と処方は、1本1本カルテを作成してお渡しします。カルテにはスケッチや画像を交えて、樹木の状態を分かりやすく表現しています。
◇始めが肝心な植栽場所
植物の育ちは、良くも悪くも環境に左右されます。植物は自分で動けませんから、植えられた環境でやっていくしかないんですね。桜にとって合わない場所に植えれば、始めは良くてもいずれ悪くなってしまいます。私たちが苗木を供給する場合はそういう点もアドバイスをします。せっかく植えるなら長く元気でいてほしいですからね。
◇推し桜を見つけて観察してほしい
桜を守っていくには管理者だけでなく、日頃から近くで見ている皆さんの「目」が大事です。でも、急に言われたところで、パッと見て良し悪しは分からないですよね。ポイントはいくつかあり、左の図にまとめたので参考にしてください。代表的なソメイヨシノは「サクラ類てんぐ巣病」や「こぶ症状」、「クビアカツヤカミキリ」による被害に遭いやすいので、異変に気づいたらぜひ管理者に連絡してほしいです。日付や場所と被害状況の写真があると管理者も動きやすいと思います。
桜の容態の観察は、日々の変化を近くで見てもらえるのが理想です。日々意識してみていると、必ず変化が見えてきます。皆さんの「目」は桜の健康維持にとって、とても重要なのです。
■推し桜のここをチェック
※本紙に写真とイラストが掲載されています。
■いつまでも美しくある桜花の景色
ソメイヨシノに限らず多くの桜を美しく保つには保護の取り組みが不可欠だ。千鳥ヶ淵のソメイヨシノだけでなく、全国で多くの桜が幾度となく危機に瀕し、そのたびに多くの人が知恵を絞り、大切な景色を守ってきたのである。
これからも一人ひとりの小さな積み重ねが桜花舞う景色を守ることにつながるのだ。
■桜を知ることができる!
◇桜図鑑
日本花の会ホームページ「桜図鑑」には、同会結城農場・桜見本園に収集保存されている多彩な桜の解説や写真を、検索機能と共に掲載しています。桜への理解を深めるツールとしてお楽しみください。
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