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自治体の皆さまへ

国際交流員ウィルペルトのコラム

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栃木県下野市

■多様性の中の統合
In Vielfalt geeint(イン フィールファルト ゲアィント)

73年前にEUというプロジェクトが始まって以来、ヨーロッパ諸国は徐々に互いの距離を縮めてきました。では、EUは具体的に何をしているのでしょうか?
EUでは、一緒に解決したほうが有利なことを決めるために加盟国が集まります。
例えば、域内を単一市場とし、すべての加盟国間では、自国と同じような条件で簡単に商品の取引や輸送販売を行うべき、と決めました。これを実現するために、多くの分野で規制のハーモナイゼーション(調和)が進められました。例えば、国ごとに規制が違えば違うほど、国際的に活動する会社には事務処理とコストが増加します。A国の会社Dが、EUのB国から材料を輸入し、それをさらに加工して、別の製品の材料としてEUのC国にある会社Eに供給・販売する場合、取引ごとにVAT(消費税)を、それも、すべての国で異なるVAT税率を払わなければなりません。そこで、EUの加盟国は単一市場で税制のハーモナイゼーションを行いました。こうすることで、すべての会社が独自のVAT識別番号をもっている限り、最終的に顧客に製品を販売する会社EだけがVATを請求すれば済み、事務処理などの手間を減らすことができます。
単一市場では、EU国間で容易に行き来できるのはモノや貨物だけではありません。資本やサービス、そして人も、同じ移動の自由を享受しています。すべてのEU国民は、どのEU加盟国でも就学、居住、買い物、就労、年金受給が可能です。それは、すべての学校卒業資格や専門職資格などが相互に承認されているからです。
単一市場が貿易の障壁を撤廃し、自国の経済を(ある程度まで)全EU加盟国に拡大したことや、人々の移動を自由にしていることは、ドイツにとって多くの利点があります。ドイツはEU予算への最大の拠出国であるといっても、加盟によって得る利益を減じるものではありません。
経済的に、ドイツでは4人に1人の雇用が輸出に依存しています。EU諸国はドイツにとって最も重要な貿易相手国で、輸出の半分以上はEU諸国が占めています。全体として、EU単一市場は(EU単一市場がなかったと仮定した場合に比べて)ドイツを毎年680億ユーロ(11兆5246億円)豊かにし、国民1人当たりの所得を毎年1000ユーロ増加してくれます。
ドイツ人の52%は、少なくとも年に1回はヨーロッパの他国を訪れています。しかし、18%は未だにヨーロッパの他の国に行ったことがなく、ドイツしか知りません。EUのすべての労働者・被雇用者は、少なくとも年間4週間の有給休暇を取得する権利があるのに。
先月のコラムを読んでくださった方は「EUは平和のためのものではなかったか?平和の話はどこに行った?」と思うかもしれません。その質問に対して、EUは「平和は、互いに触れ合いの多い緊密な関係から生まれるものです」と答えるでしょう。
国のレベルでお互いの経済が絡み合い、そこからお互いに利益を得ていれば、その関係を危険にさらしたくはないでしょう。社会のレベルでお互いが同じようなレベルの繁栄を達成していれば、嫉みも争いもありません。国民のレベルで、子どもの頃からEUの支援で学校同士の相互交流に参加し、他の国の子たちも自分たちと同じだ――家族や友人を大切にし、サッカーチームの推し活をし、将来に夢や希望を抱いている――と気づかされます。大学生の頃はEUのエラスムス・プログラムの支援で他のEU国の大学に留学し、友情を育んだり、恋愛関係を築いたり、時には新しい家族を作ったりします。このような経験と絆から、EU加盟国の間で戦争が起こる可能性はますます低くなるという考えを基に、EUは活動しています。なので、EUは加盟国から預かった予算をこのようなプログラムに使って、ヨーロッパの平和を確保しています。
EUの歴史は長く、私たち加盟国民の生活のさまざまな分野に進出しています。ロシアがウクライナに侵攻する前なら、多くのヨーロッパ人は「EUといえば何を連想するか」という質問に「平和」と即答することはあまりなく、「EUの他の国での夏休み」や「エラスムスの留学プログラム」(たまに「規制」)と答える人が多かったでしょう。ロシアの戦争は、平和の重要性と(たとえ改善できるところがまだあるとしても)EUの重要性を、私たちEU加盟国民に再認識させたと思います。

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