相田みつを氏は、本市出身の詩人、書家です。
『いのちの詩人』と称される彼の作品は、シンプルでありながら物事の本質をとらえる言葉と、それを表現する独特の書体が、多くの人を惹きつけています。
生誕100年にあたる今年、相田みつを美術館のご協力をいただき、故郷である本市で、さまざまな記念事業を実施します。
※事業の詳細はこちら(本紙PDF版3ページ参照)
■生い立ち
大正13年、相田みつを氏は足利市家富町で誕生しました。男4人、女2人の6人きょうだいの三男で、幼少期は近所の鑁阿寺や史跡足利学校で遊んでいたそうです。
昭和13年、旧制栃木県立足利中学校に入学。剣道部で活躍する一方、その頃から書や短歌に親しみ、卒業後には歌人・山下陸奥(むつ)に師事します。
■武井哲應(てつおう)老師との出逢(あ)い
18歳のころ、市内の歌会に参加し、ここで曹洞宗高福寺(家富町)の住職、武井哲應老師と出逢います。
武井老師について相田氏は著書の中で、自身にとっての『正師(しょうし)』であると語っています。『正師』とは曹洞宗の開祖・道元(どうげん)禅師の言葉で、絶対者のことを表します。禅の教えを説いた武井老師は相田氏にとって、精神的・内面的な意味で生涯の師でありました。
老師から授かった『今ここに生きること』『一心不乱に物事に取り組むこと』といった禅の教えは、相田みつを作品の根底に深く刻まれています。
■自分の言葉、自分の書
19歳のころから本格的に書道を学びはじめた相田氏。その才能はすぐに開花し、22歳の時に応募した『鄭文公碑臨書(ていぶんこうひりんしょ)』では全国コンクール第1位を獲得します。当初はいわゆる『正統派』な楷書を書いていましたが、専門家でなければ理解しにくい伝統的な書のあり方に疑問を抱きはじめます。自分の言葉を、その言葉にあった文字で書きたいと考え、試行錯誤を繰り返し、30代のころ、独特の書体でシンプルな言葉を書く現在のスタイルを確立しました。この頃から本名の『光男』ではなく『みつを』の名を書に刻むようになりました。
■緻密に計算された書
個性的な書体が不規則に並ぶ素朴な作品は、一見簡単に書いているように見えますが、一つの作品の完成までに、多大な時間を費やしていました。詩を考える段階で1年、2年かかることは当たり前で、10年以上かかった詩もあるそうです。書にする際は、何枚も書き、アトリエが紙の山となることもありました。読む人の心に届くよう、そのバランスは緻密に計算され、周りの余白にもこだわり、トリミング(不要な部分を切り取ること)まで自ら行っていたようです。
■晩年に開花
現在でこそ国内外にファンを持つ相田氏ですが、生前、生活面で苦労する時代が長かったようです。相田氏が書家を志した当時は、高度経済成長期。物質的な豊かさが求められる時代に、内面的な豊かさを説く相田氏の作品はなかなか売れず、地元商店の包装紙やのれんなどのデザインを請け負い生計を立てていました。
昭和59年、60歳の時に出版した初めての本『にんげんだもの』がきっかけとなり、広く名が知られるようになります。同本はその後ミリオンセラーとなりました。つづく『おかげさん』や『一生感動一生青春』により、詩人・書家としての地位を確立しました。
■略年譜
大正13年(1924年)
・足利市家富町に6人きょうだいの三男として誕生。本名は光男。
・父は刺繍職人。兄2人を戦争で亡くしている。
昭和12年(1937年・13歳)
・旧制栃木県立足利中学校(現栃木県立足利高等学校)入学。書や短歌、絵に親しみ、剣道部で活躍する。
昭和17年(1942年・18歳)
・旧制栃木県立足利中学校卒業。
・歌人山下陸奥に師事し、歌誌『一路』に参加する。
・曹洞宗高福寺(家富町)の禅僧・武井哲應老師と出逢い、仏法を学ぶ。
昭和29年(1954年・30歳)
・第1回の個展を足利市内で開く。
以後足利市を中心に各地で『自分の言葉・自分の書』をテーマに個展を開く。
・結婚を機に借宿町に転居。
昭和41年(1966年・42歳)
・足利市八幡町に転居。終生この地で創作活動を行う。
昭和49年(1974年・50歳)
・在家の仏教活動として『円融会』をつくり『円融便り』を発行する。
昭和59年(1984年・60歳)
・初めての本『にんげんだもの』(文化出版局)を出版。
平成3年(1991年・67歳)
・東京都の原宿で『いのちいっぱい展』開催。
・11月、左足を骨折し市内の病院に入院。
・NHK教育テレビ『こころの時代』で武井老師について語る。(12月1日放送)
・12月17日、脳内出血により逝去。享年67歳。
■主な著書
『にんげんだもの』『一生感動 一生青春』(文化出版局)
『おかげさん』『いのちいっぱい』(ダイヤモンド社)
『生きていてよかった』(角川文庫)
『こころの暦 にんげんだもの1』『こころの暦 にんげんだもの2』『トイレ用日めくり ひとりしずか1』『トイレ用日めくり ひとりしずか2』(相田みつを美術館)
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