■トリックアートの歴史
佐川美術館
学芸員:栗田頌子(くりたしょうこ)
だまし絵とも言われるトリックアートは、明暗法や遠近法、色の性質を巧みに利用して制作されており、現在も常に新しい技術やアイデアが加えられ進化しています。
トリックアートの起源は2、000年以上前の古代ローマにまでさかのぼります。火山の噴火で街全体が壊滅したポンペイ遺跡の壁画の中に、独特な遠近法によって錯覚させる絵が残されています。ルネサンス期になると教会などの装飾として壁画や天井画に取り入れられ、次第にトロンプ・ルイユ(フランス語で「眼をだます」の意)と呼ばれるようになりました。16世紀に入ると、イタリア人画家のアルチンボルドが野菜や植物などの静物を組み合わせて人の顔を描いています。こちらは美術の教科書によく掲載されているためご存じの方も多いでしょう。一方、日本でもトリックアートは独自の発展を遂げ、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳を代表として、複数の人や猫を寄せて文字や顔を描く「寄せ絵」が流行しました。
このように世界各地で描かれ続けてきたトリックアートの世界に、20世紀に入って奇才が現れます。「視覚の魔術師」の異名を持つエッシャーは、無限に上り続ける階段といった三次元ではありえない構造物を平面に描いたり、ある形が次第に別の形に変化するメタモルフォーゼ作品を制作したりと、独自の世界観を展開しました。
トリックアートはいつの時代でも人々の好奇心を駆り立て、魅了してやみません。この冬は佐川美術館でエッシャーの不思議な世界をお楽しみください!
※開館情報につきましては、ホームページでご確認いただくか電話〔【電話】585-7800〕でお問い合わせください。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>