■子どもたちと戦争
戦争は子どもたちにも強い影響を及ぼします。近年の戦争や紛争などの報道でも子どもたちが戦争に巻き込まれていく様子を目の当たりにすることがあります。
おおよそ80年前の日本が戦った戦争ーアジア・太平洋戦争ーの時代、同じように子どもたちの日常が戦争という非日常に染まっていたことを伝える資料が博物館の収蔵資料にはあります。
博物館の収蔵資料のうち、もっとも大きなコレクション里内文庫資料(滋賀県指定文化財)にある、「お父さんお母さんボクも空へやって下さい」と記されたポスターは、そのことを象徴的に表す資料です。このポスターをじっくり見てみましょう。左端下に描かれた赤ちゃんから反時計回りに視線を移すと、赤ちゃんはやがておもちゃの軍用機を手にして遊ぶようになり、少年となってすっくと立ちあがって大空を見上げます。後姿の少年の視線の先には、自らが思い描く将来の姿ー航空兵となった自分ーが描かれています。航空兵はあどけない表情で、本来の徴兵年齢に達していない未成人であることが分かります。印象的な明朝体で力強く記された言葉「お父さんお母さん…」がスローガンのように迫るこのポスターは、少年時代から養成が始まる航空兵に子どもたちが志願することを美化し、促すために制作されたものなのです。
アジア・太平洋戦争の時代、子どもたちは日本軍が挙げる戦果を報道する情報や、戦争協力をよしとする情報があふれる中で育ちました。兵士への憧れや戦争への賛同を無意識のうちに養われるようになる環境があったのです。収蔵資料の子ども用ごはん茶碗もまた、そうした環境を示しています。ごはん茶碗に描かれた兵士と戦車や、兵士の姿を立体的に模した貯金箱は、現代の戦隊もののヒーローがごはん茶碗に描かれ、塩ビ人形や精巧なフィギュアとして表されることに通底するものがあります。さらにこの時代、貯金は銀行などによって運用され、戦争の資金に用いる国債の購入に充てられたため、貯金箱は戦争への賛同を示すグッズの側面も備えていました。
博物館では、今年も戦争と平和について考える「平和のいしずえ」展を開催します。(詳細はお知らせ版8ページに掲載)夏休みのこの時期に、子どもたちに戦争と平和について考えてもらう機会として、ぜひ博物館にお越しください。
問合せ:栗東歴史民俗博物館
【電話】554-2733【FAX】554-2755
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