■かつては一握りの人のみが鑑賞できた絵画
草津宿本陣は国の史跡に指定されており、建物そのものが貴重な文化財です。しかし、建具のうち「障壁画(しょうへきが)」といわれる襖(ふすま)絵や杉戸絵(すぎどえ)などは、それぞれに美術品としての価値があります。とりわけ、長く続く畳廊下を抜けた先の一段上がった空間「上段棟」には、そうした障壁画がいくつかありました。
そのうちの一つが《葡萄(ぶどう)図》です。《葡萄図》は、本陣の中で最も格式の高い部屋である「上段の間」に配されています。部屋の外側から見ると筬欄間(おさらんま)になっている箇所で、内側では欄間の裏から左の壁にかけて3面に渡り《葡萄図》が広がります。草津宿本陣を見学する場合でも、上段の間を臨む際にちょうど頭上にあるため全体を見ることはできません。上段の間は、江戸時代にもその格式の高さから入室できる人が限られており、この絵を見ることができたのはほんの一握りの人だけだったと考えられます。
《葡萄図》には落款(らっかん)などがなく、制作年代・作者とも未詳です。絹本墨画(けんぽんぼくが)で、木板に貼り付けられています。絵絹(えぎぬ)には、描画面の裏側に金箔を押す「裏箔」がなされており、華やかながらも落ち着いた画面となっています。墨で描かれる葡萄の枝には、小ぶりな実が豊かに実り、枝葉は巧みな色使いによって空間的な奥行きが表現されます。
上段の間にはこの他に、江戸時代の画家・松村景文の描いた《秋海棠図腰高障子(しゅうかいどうずこしだかしょうじ)》が配されています。秋海棠は多年草の植物で、秋ごろに開花します。ここに描かれる秋海棠も小さな淡紅色の花をつけており、上段の間のしつらえは《葡萄図》と併せて秋をイメージしたものであったと考えられます。
現在、史跡草津宿本陣は耐震工事実施のため休館しており、《葡萄図》は草津宿本陣一般公開開始以来28年ぶりに上段の間から取り外しています。11月19日(火)から草津宿街道交流館で開催する「草津宿本陣特集展示その4本陣当主・田中家に伝わる美術」で展示しますので、草津宿本陣が休館中の今だからこそ近くで見られる貴重な絵画を、ぜひご覧ください。
問合せ:草津宿街道交流館(草津三)
【電話】567-0030
【FAX】567-0031
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