■江戸時代のホスピタリティー草津宿本陣に残された「鍵」
田中七左衛門本陣に残された膨大な歴史資料の中でも特にユニークなのが、全18点の「忘れ物」です。このうちの一つ、煙管(きせる)入れが“新選組の忘れ物”として有名になりましたが、他にも興味深い資料があります。
例えば2点が残る「鍵」。このうち1点に結び付けられた紙札には、田中七左衛門本陣の「四月四日御鉄砲方様御泊(おんてっぽうかたさまおとまり)の節」の忘れ物とあります。「三宅様」以下5人の部屋にあったと書かれていることから、5人が相部屋で泊まったと推測できます。
「両懸鍵(りょうがけかぎ)」とあるため、2つの挟箱やつづらを棒の両端にかけ、肩にかつぐ荷物の一種「両掛」の鍵とみられていたようです。これが今でも草津にあるということは、持ち主の元には戻らなかったわけですが、果たしてスペアキーに当たるものは持っていたのでしょうか。いろいろな想像が膨らみます。
もう1点は2つが一緒にこよりで結ばれており、紙札によると「土州(土佐藩)」の行宗春意(ゆきむねはるおき)※という人物が草津宿内の合羽屋という旅籠(はたご)に忘れたもののようです。「庭に落ていたと子供箒(ほうき)ひろい候(原文ママ)」と、発見時の状況まで書き留められていました。本陣での落とし物ではないものまで七左衛門家が保管していたことから、草津宿内、あるいは本陣利用者の同行者の忘れ物を本陣で預かる仕組みがあったこともうかがえます。
実は、江戸時代の「忘れ物」であると明確に分かる歴史資料は、全国的にも珍しいものです。多数あったであろう忘れ物の中から、なぜこれら18点のみが現在まで残ったのか。残念ながら具体的な理由は不明ですが、持ち主と思われる人物の名や発見場所を詳しく記録していることから「お客様の持ち物を大切にお預かりしよう」という当時の人々のおもてなしの心がうかがえます。
※ふりがなは推測
■史跡草津宿本陣は耐震工事のため、6月1日(土)から来年3月末まで臨時休館します。休館期間中は草津宿街道交流館で、関連資料やパネルの展示を行います。今回紹介した「忘れ物」も展示しますので、ぜひご来館ください(期間中展示替えあり)。
問い合わせ先:草津宿街道交流館(草津三)
【電話】567-0030
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