■scene4 事例から探る解決の糸口
《再生のヒントは、官民連携》
再生に向け歩みを始めた菊池温泉街。同じような規模ながら、官民が連携し、魅力的な温泉街に変貌した長門(ながと)湯本温泉(山口県長門市)の関係者に話を聞きました。
長門市役所 松岡裕史(まつおかゆうじ)主査
◇危機感の少なかった当事者
長門湯本温泉は山口県で最も古い歴史を持っています。昭和59年には過去最高の宿泊客数を記録。しかし、他の多くの温泉街と同じように団体客が減り、にぎわいが失われていきました。
こうした危機的状況の中、平成28年に大型リゾート運営会社と協定を締結。公衆浴場や遊歩道など、温泉街の中心施設を整備するマスタープランを策定しました。
しかし、まだ宿泊事業者や飲食店などの地元の人には「行政とリゾート会社がなんとかしてくれる」という空気があったんです。
◇観光業はまちづくり
市の土地をどう開発するかの検討や住民の合意形成などは、行政にしかできないこと。でも、施設を整備してもそれが赤字になってしまっては意味がない。私たちはあくまで支援する立場として、事業主体は民間に任せる方針でプロジェクトを推進しました。
地域住民とは徹底的に話し合いを続けました。思いが伝わり、平成29年には旅館の後継者を中心とした民間事業者出資のカフェがオープン。温泉街に新店舗ができたのは20年ぶりでした。以降、現在までに17の事業所が新たに開業しています。官民一体となって事業を推進する。それが長門湯本温泉の特徴なんです。
観光業は、外貨を獲得して事業者が潤うだけでなく、地域住民が外部の人と交流する貴重な機会。また、旅行でそのまちに来てもらうことで関係人口の増加、ひいては移住にもつながる可能性があります。
観光業はまちづくりの一環といっても過言ではありません。宿泊施設が集まる温泉街はその核になるものです。だからこそ、地域住民が中心となった再生を進めることが必要だと考えています。
〔長門湯本温泉〕
山口県で最古の温泉地。近年は街全体の再整備が進み、立ち寄り湯や川床テラス、街中を照らす幻想的なライトアップの演出、次々と進出する新しい宿泊施設や飲食店、商店と、「歩いて楽しい温泉地」に変貌している。
■scene5 地域住民の思い
《菊池温泉街の灯(あかり)を消したくない-》
温泉街を残したいと考えているのは旅館の経営者だけではありません。
強い思いで温泉街を盛り上げようと活動する人たちに話を聞きました。
◇再生に向けて全力を尽くす
肴屋 夢路 神田祐樹(かんだゆうき)さん
菊池温泉街リブランディング検討委員会に委員として参加しています。
菊池で生まれ育ち、隈府の商店街で飲食店を開業して17年目です。温泉街に近いため、通りを歩く浴衣姿の宿泊客をたくさん見てきました。最近はめっきり少なくなり、商店街も空き店舗が増え、ずいぶん寂しくなっています。
もし、旅館の灯が消えてしまったら、観光客はより集客力のある地域に流れてしまい、菊池に来る人はますます少なくなります。
だから、リブランディング事業の成功はこのまちが盛り上がるため絶対に必要なもの。人が消えつつある菊池に人を呼び戻す重要な手段なんです。
旅館、飲食店、市民、行政が一丸となって、これからもっといろいろと仕掛けていきたい。
みんなで取り組めば菊池はもっと良い方向に変わっていくはずです。そのためにできることは何でもやっていきたいと思います。
◇たくさんの人に魅力を伝えたい
ボードゲーム喫茶 しんきんぐ 高本梨花(たかもとりか)さん
幼い頃から温泉街にある旅館の温泉に通っています。
県外から友達が遊びに来たときは、必ず菊池温泉に案内しています。「泉質が最高だね」「足湯がたくさんあって楽しい」などと評判がいいです。
私は大学時代に県外に出ましたが、卒業後、帰ってきたのはこのまちと菊池温泉が好きだから。もしなくなってしまったら、市外に引っ越してしまうかもしれません。
温泉街のノスタルジックな雰囲気も大好き。一方、女性が気軽に入れるお店が少ないとも感じています。おしゃれな店舗がもっと増えれば、若い世代のお客さんがもっと来てくれるんじゃないでしょうか。
私も微力ながら菊池温泉の良さを知ってもらえるよう、宿泊施設と提携して、経営店舗のイベント来場者に温泉チケットを配布しています。
市内外問わず、もっと多くの人たちに魅力を伝えていきたいですね。
■scene6 新たなスタート
《リブランディング事業が目指すもの》
◇温泉街を包む新しい光
「こんな温泉街初めて見た」
「観光客の人と交流できたのが楽しかった」
10月5日・6日に行われた「ほろよいあかり」では、訪れた人たちが幻想的な雰囲気を楽しんでいました。夜の新たな景観創出に向け、温泉街の道沿いをライトアップするという初めての試みです。
「過去のイメージを払拭して、温泉街の新しい姿を見せたい」と宿泊施設や飲食店、地元、行政の関係者が一体となってつくり上げました。
同時開催のイベント「温泉街deはしご酒」も大好評。2日間で約1200人が来場し、参加者は近隣の飲食店巡りを楽しみました。音楽ライブも行われ、いつもとは違った温泉街に楽しそうな笑い声が響き渡りました。
◇大切なのは「暮らしそのもの」
温泉街では再生に向け、日本名湯百選に選ばれた温泉だけでなく、自然や歴史・文化、食といった「菊池の暮らしそのもの」を組み合わせ、官民が連携して新たな魅力創出に取り組んでいます。
地域全体で訪れる人たちをもてなすこと。そして、地元の人も楽しいと思えるまちにすること。そうすることで、さらなる交流が生まれ、「また訪れたい」と思ってもらえるような魅力のある温泉街になっていくのではないでしょうか。
菊池温泉湧出から70年-。次の世代につなげるために新しいスタートを切りました。
問い合わせ先:観光振興課
【電話】0968-25-7223
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