昨年10月20日の文化庁文化審議会で国史跡への指定の答申がされた菊池氏遺跡が、2月21日の官報により、正式に国指定史跡に決定しました。
本市における国指定史跡は、鞠智城跡(きくちじょうあと)に次いで2件目です。
■菊池氏とは
菊池を本拠地として、中世肥後国(ひごのくに)で活躍した武士団です。蒙古(もうこ)襲来時や南北朝時代における活躍は『蒙古襲来絵詞(えことば)』や『太平記』でも語られています。
平安時代末から鎌倉時代にかけては肥後国最有力武士、南北朝時代には九州宮方勢力の中心、室町時代には肥後国守護(しゅご)として、九州の中世史を体現する存在と捉えられています。
■菊池氏遺跡とは
市教育委員会は、平成23年度から深川・北宮地区を中心に、菊池氏に関連した遺跡の確認調査や文献調査を進めてきました。その結果、市内には菊池氏の活躍の痕跡があちこちに残っていることが分かり、広域的に菊池氏遺跡と呼ぶのがふさわしいと考えました。
遺跡は、菊池氏が最初に居を構えたとされる「北宮館跡(きたみややかたあと)」、河川の護岸施設が見つかった「菊之池B遺跡」、「北宮阿蘇神社」から構成されています。北宮館跡は菊之城跡と呼称していましたが、城ではなく館である可能性が高いことから、字名から北宮館跡という名称になりました。
■遺跡の特徴
▽建物跡や土器などを発掘
菊池氏が居を構えたとされる北宮館跡の確認調査の結果、掘立柱(ほったてばしら)建物跡、土器が人為的に埋められた土坑(どこう)や溝跡などが見つかりました。さらに13世紀後半から14世紀前半(鎌倉時代~南北朝時代)にかけての大量の土師器(はじき)(普段使いの土器)、中国で焼かれた輸入陶磁器、天目(てんもく)茶碗や風炉(ふろ)などが出土しました。
建物跡などが見つかったこと、大量の土師器や高価な輸入陶磁器が出土したことから、古くからの言い伝えのとおり、かつてこの場所に菊池氏の当主の館があったと考えられます。
▽河川を利用した水運
菊之池B遺跡では、すり鉢状や階段状に河原石が人為的に敷きつめられた石組遺構が見つかりました。流れのない池のような場所では、堆積した土を浚渫(しゅんせつ)した痕跡が見つかりました。
また、土師器、輸入陶磁器、天目茶碗なども出土しています。すり鉢状の石組は小型の川舟を係留する場所、階段状の石組は護岸、浚渫の跡は舟溜まりのような場所で、整備しながら使っていたと考えられます。
さらに、石組遺構が見つかった個所は河川に面していたと考えられ、その頃の菊池川は、現代よりももっと北西を流れていたと推測されます。
これらのことから、当時は川港など河川に関連した施設が整備され、河川を利用した水運があったと考えられます。
▽菊池氏ゆかりの宗教施設
北宮阿蘇神社は、当時の菊池氏ゆかりの宗教施設であると考えられます。その証拠に、17代当主武朝(たけとも)が発起人となって、一族の者が奉納した男女神坐像(だんじょしんざぞう)が今も残っています。
▽当時を思い起こさせる字名
「上市場」や「下市場」など、市場を連想させる字名が周辺に現在も残っており、川港で荷降ろしされた品物が、売り買いされていた光景が目に浮かびます。
■中世当時をうかがえる価値ある遺跡
一連の調査の結果、館跡や宗教施設、川港などの施設、さらに市場を連想させる地名などから、今回指定された深川・北宮地区には、中世当時の館周辺の景観が今でも残っていると考えられます。
菊池氏はその後、14世紀半ば頃(南北朝時代)に隈府地区へ本拠を移し、室町時代には肥後・筑後一帯を支配領域とする守護職(しゅごしき)として成長をしていきますが、東国(とうごく)から下向(げこう)した勢力以外でその国の守護となった者は、九州では他にいないことから、在地領主(ざいちりょうしゅ)から守護職へ発展していく過程を理解する上で、全国的にも非常に貴重な事例です。
菊池氏遺跡は、菊池氏の中世の館周辺の具体像を示す遺跡群であると同時に、中世武士団の領域経営の在り方を知ることができ、守護職へと成長する過程をうかがうことができる、肥後国の中世史を語る上で欠かすことのできない、国指定史跡として価値のある遺跡なのです。
■遺跡の今後について
区長をはじめ、地域や地権者の皆さんのご理解、ご協力があって、国指定が実現しました。
菊池氏遺跡が国指定史跡となったことは、ゴールではなく、スタートです。今後は、遺跡をどのように保存して活用していくかの方針を定めた保存活用計画を作成し、適切な保存、管理、整備を図り、歴史学習や地域活性化など、幅広く活用していきたいと考えています。
市では、これからさらに周辺の調査を行い、歴史的価値の解明を進めていきます。
◇国史跡指定記念「隈府土井ノ外(どいのそと)遺跡」企画展
この遺跡は菊池高校の改築工事に先立ち、平成17・18年度に県文化課が発掘調査を行いました。出土品を通して、菊池氏の当時の生活の一部を再現します。
期間:~7月28日(日)
会場:わいふ一番館
料金:一般220円、小中学生110円
問合せ:生涯学習課
【電話】0968-25-7232
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