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スズラン自生地 発見から50年

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熊本県阿蘇市

波野のスズラン自生地は、日本で最南端のスズラン自生地です。5月中旬になると約5万株のスズランの花が咲き、甘い匂いを漂わせます。この地でスズランが発見されたのは今から50年前の昭和49年。半世紀に渡って多くの人の目を楽しませてきました。自生地の歴史を振り返り、希少な植物の未来を考えます。

■スズラン自生地の歴史
「よく山へ遊びに行き、子供の手では持ちきれないほどのスズランを摘んでいました」。宮﨑喜和子さんが小学生になる前のことです。5月になると実家の山には白い花がたくさん咲いていました。山を遊び場にしていた宮﨑さんにとって当たり前の光景。それが九州で唯一と言っていいほどの珍しいものだとはまだ想像していませんでした。
小学生になって、図鑑を読んでいた宮﨑さんは「スズラン」のページを見て驚きました。「これは山にある小さな白い花ではないか」。しかし、当時は「こんなところにスズランがあるわけない」と、家族も取り合ってはくれませんでした。
高校卒業後、旧波野村の役場に勤め始めた宮﨑さん。職場に彩りを加えようと窓口や机に、幼い頃から慣れ親しんだ白い花を飾りました。その可憐な姿が上司の目に止まりました。「これはスズランではないのか。どこにあったのか」。「うちの山にいっぱい生えてますよ」
そして今から50年前の昭和49年、専門家の調査を経てその花がスズランであることが分かりました。その2年後、宮﨑さん宅の山は熊本県自然環境保全地域に指定され、スズラン自生地として旧波野村が植物の保護を開始。その後、村が原野を購入し駐車場や休憩所を整備し、現在の姿になりました。
宮﨑さんが役場に花を持っていかなければ、上司が花に目を向けなければ、もしかしたら今のスズラン自生地の姿はなかったかもしれません。

■スズランは地域の宝
スズランのシーズンになると多くの人で賑わうスズラン自生地。昨年の5月は1カ月で4300人が訪れました。「駐車場に入れないかと思うほどたくさんの車が来ました」。自生地で施設の管理や来場者への案内を行っているスズラン自生地管理組合の釣井けい子組合長は昨年の賑わいを振り返りました。
「スズランはまだですが、あの辺りに違う花が咲いていますよ」。釣井組合長は来場者に笑顔で話しかけます。4月下旬からはほぼ毎日自生地に来て、来場者に積極的に声をかけています。休憩所の中には自生地で見ることができる野草をまとめたパネルを展示。このような心づかいは来場者の心を掴み、年々その数を増やしてきました。
なぜ来場者に対してそこまでするのか。組合長と共に来場者を出迎える組合員の釣井晴奈さんはこう答えました。「スズランをわざわざ見に来てくれるのはありがたいこと。みんなによろこんでもらえたらうれしい」。
釣井さんたちは我が子のようにスズランへ愛を注いでいます。スズランが蕾をつけると「ことしも咲いてくれてありがとう」とうれしくなるそうです。「スズランは波野の宝です。スズランの良さを多くの人に知って欲しい」。スズラン自生地を支えるのは地元の人たちの愛でした。

■スズランのピンチ
地元の人や観光客に愛される一方で、スズランは存続の危機に晒されています。「一昨年も根っこから持っていかれましたよ」。釣井組合長が語気を強めました。自生地では盗掘が相次いでおり、スコップで根から掘り起こして持ち去る被害が後を絶ちません。スズランは熊本県の希少野生動植物に指定されており、採取など違反した場合は条例により1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることがあります。
「スズランがかわいそうでです。どうせ移植しても枯れるだけなのに」。釣井さんが嘆きました。「スズランは見て楽しんでほしい」

■スズランを守る取り組み
市もスズラン自生地での植物の多様性を守るための取り組みを進めています。自生地では監視カメラを3台設置し、盗掘に対する監視を強化しています。
さらに、自生地の植生の調査と最適な生育環境の検討を実施。植生を調査した結果、希少植物21種を含む209種の植物が見つかりました。中には絶滅危惧種をまとめた環境省のレッドリストに掲載されている種もあり、自生地全体の保全の必要性が改めてわかりました。
生育環境の検討は、野焼きをした上で、A・草刈りを年1回、B・草刈りを年2回、C・草刈りなしの3エリアに分けて植物の高さや密度を調査。草刈りの頻度を上げれば植物の種類が増える一方で、外来種が侵入しやすくなることがわかりました。つまり、良い状態を維持するためには、草刈りの回数を変えながら管理をしていくことが理想的だということです。
これは奇しくも50年以上前のこの土地の管理手法と似通ったものでした。スズランが発見されるまでは山を採草地として利用していたため、草刈りを定期的にしていたそうです。もしかしたら、草原に人が手を加えてきたことが、スズランが現在まで生き永らえた要因の1つであるのかもしれません。
「思ったより小さい」。スズランを見つけた小学生たちの元気な声が響きます。昨年5月に自生地で波野小の草原学習が行われました。地元の小学生に自生地のことを知ってもらおうと市と同小が企画。子供たちは「いろいろな花を見られて楽しかった」と話し、大満足のようすでした。未来に向けて植物を守り、子供たちの笑顔を未来につなぐ。そのために何をすべきか、私たちが考えなければなりません。

ースズランを未来へー

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