■桃太郎の話
桃太郎のお話は、みなさんもご存じのとおり、イヌ、サル、キジを連れて鬼退治をして財宝を取り返し、めでたしめでたし…という物語。一人では困難なことも、仲間と一緒に立ち向かうことで目的を達成できるというメッセージが込められているそうだ。私も我が子に何の違和感もなく話していた。
随分前の研修で「鬼事情知っていますか」と話した講師の言葉に、なぜ鬼さんが人の物を取ったのか、桃太郎は鬼退治をしたけれど、そのやり方はそれでよかったのかなど、いろんな疑問がたくさん出てきたことを思い出した。桃太郎は現代ならどう裁かれるかを模擬裁判したとき、仲間と共に鬼ヶ島で鬼の一人を切り殺し、30人以上に重傷を負わせ、鬼たちが持っていた財宝を奪って村に持ち帰ってしまった彼の罪は、刑法第240条の強盗殺人罪にあたるらしい。だが、村の救済をしたということで無罪放免になった判決が下ったそうだ。判決の結果はともあれ、鬼だから殺してもいいのか、鬼はみんな悪者なのか、「正義のもとに悪者を倒す」その正義と悪者の判断は誰がするのだろう。鬼退治の理由が注目されるが、鬼が人の物を取ったり人さらいをしたなど悪さをしたから、殿様に行けと言われたから、柴刈りなどの仕事をしたくなかったからなど諸説あり、芥川龍之介や福沢諭吉などは卑劣千万と書いている。
この話を出したのは、実は「不登校の子どもが怠けて学校に行かない」という、大人の相談を受けて即座に思ったから。“桃太郎は正義の味方”その固定観念。怠けて本当に学校に行かないのか、行けないのではないのか。ここに足りないのは情報。アセスメント(不登校の背景や本人への理解)ができていないのに、憶測やその人の価値観で考えてしまうことは絶対に避けなければならない。特に専門家が加害者になってはいけない。そこを踏み外すとアドボカシー(援助者が権利を擁護、代弁すること)のない子どもは沈んでいってしまうから。
三人寄れば文殊の知恵。専門家はもっと多職種の人たちとつながって。解決は専門家だけでは難しいのだから。
▽村中智恵(むらなかさとえ)
看護師として10年の勤務後、専業主婦となる。4人の子育て中に出会った母親たちから聞こえてくる苦しみは、まさに「家族の危機」が多く、水面下の現実を知る。
その後、母親たちを支援することにより、子どもの健全育成を図ることができるのではないかと考え、地域協働の子育てを実現させようと活動を始める。
現在、民生委員・児童委員として活動している。
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