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【特集】厚木と相模人形芝居 歴史を思い つなぐ(1)

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神奈川県厚木市

相模人形芝居は約300年前に市内に伝わり、娯楽、芸能、文化財として形を変えながら受け継がれています。歴史をつなぐ皆さんの思いを聞きました。

拍子木の音に合わせて、舞台の幕が開きます。演目は相模人形芝居の代表作の一つ「傾城(けいせい)阿波の鳴門・順礼歌(うた)の段」。主君の刀を探す夫婦の家に両親を探して旅する少女お鶴が訪れる場面から始まる物語です。お鶴が実の娘と気付きながらも送り出す母の姿は観客を引き付けます。人形を操るのは長谷座の皆さん。3人で息を合わせ、人形に命を吹き込みます。

■過去からの思いを守る
長谷座は淡路の人形遣いが技を伝えたことが始まりといわれ、それを示す記念碑や人形の面が長谷の堰(せき)神社に残されています。座長を務めるのは井上真弓さん(68・三田南)。30年前、座長を務めていた父が亡くなったことをきっかけに座に入りました。「初めは話の内容も操作の方法も全く分からなかった。勉強する中で、奥深さが面白くなり、のめり込んでいった」と振り返ります。
座員は16人。担い手不足に直面した時期もありましたが、人形芝居の基礎を学ぶ郷土芸能学校や大学での出前講座などをきっかけに座員を集め、歴史をつないできました。3年前、座長に就任した井上さんは、人形芝居を見たいと思う人が増えれば、おのずとつながっていくと考えています。座員の技術向上のため、他県で活躍する人形遣いを講師に招き指導を受けています。「見てもらえる芝居にするためには、自分たちで練習するだけでは足りない。もっと技術を高め、より良い芝居を作っていく必要がある」と稽古に打ち込みます。
「幕をかけるよ」「人形の動きを確認するから集まって」。緑ケ丘小学校の体育館では、林座の座長・葉山修次さん(43・林)が公演を準備する座員たちを見守ります。林地区には約280年前に人形芝居が伝わり、娯楽の一つとして住民たちが競って稽古していました。
葉山さんが幼い頃、近くの公園や神社の祭りで披露されていた林座の芝居。10年前に人形遣いのなり手が少ないことを聞き、地元のためになればと座員になりました。仕事で練習に参加できる機会が少なかったため、公演の日程調整や運営など、人形を操る以外の仕事を進んで受け持ってきました。
そんな中、5年前に他の座員から座長に推薦されます。「自分が座長を引き受けず、座がなくなってしまうのは嫌だという気持ちが強かった。昔の人が楽しみ、誰かを喜ばせるために考えたもの。何百年もつながってきた文化がなくなってほしくない」と話す葉山さん。座員の芝居を裏で支えています。

■忘れられない景色
時代が流れ、身近な場所で披露される機会が減った相模人形芝居。二つの座は芝居に触れてもらうため、学校や公民館での公演、講座などを続けてきました。その活動の歴史が厚木王子高校に伝わっています。同校の人形浄瑠璃部は1971年、林座の座長と厚木東高校の教頭が呼びかけて集まった約25人の生徒で始まりました。
現在は5人の部員があつぎひがし座のメンバーの指導の下で練習を重ねています。部長の植木悠太さん(2年)は人形浄瑠璃の珍しさに引かれて入部しました。「発表を見てくれた人から『生きているみたい』『とても面白かった』と声をもらえるのがうれしい」と笑顔を見せます。
創部時のメンバーで、あつぎひがし座代表の林田洋子さん(69・水引)は週に2回ほど、指導のために部を訪れています。「学生時代、初めて出た舞台から見えた観客の笑顔や涙が忘れられない。その喜びを今の子どもたちにも味わってほしくて卒業後も指導者として関わり続けている」と話す林田さん。部員たちの指導をしながら、毎年開く自主公演や依頼を受けた舞台のために、自治会館などに月2・3回ほど集まって練習を続けています。

■難しいけど楽しい
相模人形芝居に欠かせない存在が義太夫節です。太夫の語りと三味線の音で登場人物の人柄や心情を表現します。
国の重要無形文化財「義太夫節」総合認定の保持者・竹本土佐子さん(本名林ミチヨ・81・下荻野)は、6歳からこの道を歩んできました。国内外で公演を続けながら、15人に義太夫節を指導しています。その一人、入江敦子さん(57・下川入)は人形浄瑠璃部の出身です。口ずさめるまで聞いていた義太夫節に憧れ、習い始めた入江さん。39年前からは竹本さんの下で稽古を続け、共に長谷座や林座の公演などで語りを披露しています。「約40年続けてきたけれど、登場人物の心の内や魂を声で表現するのはまだ難しい。けれどこの難しさに挑むのが楽しくて、好きだから続けている」とほほ笑みます。
相模人形芝居に長年関わってきた竹本さんは「昔からこの土地に根付き、伝わってきているから郷土芸能と呼んでもらえる。簡単に作れないからこそ、途絶えさせてはいけない」と、自身の経験を多くの人に伝えています。

■手を尽くしてつないでいく
今でも他の太夫に師事し、日々稽古を続けながら技を磨く竹本さん。録音や映像では学べないことが多くあると、人から人への継承を大切にしています。「技をつなぐにはとにかく一生懸命やることが大切。そうすれば、見ている人にも伝わり、応援してくれる」と芸能と向き合い続けています。
長谷座・林座、あつぎひがし座は、11月に開催される郷土芸能まつりに出演します。「動かすタイミングを合わせて」「人形の目線が下がっているよ」。より良い舞台を作るため、歴史をつなぐため、今日も座員たちは人形に命を吹き込みます。

問合せ:文化魅力創造課
【電話】225-2509

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