今まで培った知識と経験を地域社会に役立てながら、生き生きと働く環境をつくる、シルバー人材センター。平塚市では「生きがい事業団」の名称で知られている。1,900人以上が登録し、幅広い分野で生き生きと活躍している。
◆新たなやりがいと出会う
生きがい事業団では、自分の体力や能力、希望に応じて働ける。未経験でできる仕事もあり、入会してから新たな挑戦を楽しむ会員も多い。
10月23日、生きがい事業団まつりの「ふすまの張り替え実演」ブースをたくさんの人が埋めた。視線を集めたのは、生きがい事業団「ふすま班」の吉澤(よしざわ)重俊さん。説明をしながら、慣れた手つきで作業を進めていた。
◇好きが仕事に
「まだまだ体は元気だし、何かやりたいと思ったんです」。吉澤さんが事業団に入会したのは63歳の時。入会してからずっと、ふすま・戸ふすま・障子の張り替えを請け負う「ふすま班」で活動している。「入会して初めて触れた仕事でした。昔から物作りが好きだったので、向いている班に入れて良かったです」と長年続けてきた仕事を満足そうに振り返る。現在は楽しみながら、技術を生かした作品の制作・販売をしたり、ミニ屏風(びょうぶ)作りの教室を開いたりもしている。
「お客さんからの『ありがとう』の言葉が何よりうれしいんです」と笑顔の吉澤さん。骨が何本も折れたふすまなど、難しい依頼ほど、きれいにして喜んでもらいたい、とやる気になるとか。「好きな物作りを、事業団でできた仲間と一緒にできることが、私にとってのやりがいです」。
◇初心者でも安心して
ふすま班は現在5人。全員、入会して初めて、先輩に技術を教わった。引き継がれているのは、班を立ち上げた頃の会員が、県の職業訓練センターで学んだ技術だと言う。
依頼は年間350件以上あり、お盆や年末に集中する。毎日できる仕事ではないので、上達には時間がかかる。「一人前になるまで、早くても1年はかかります。でも経験を積めば、必ずできるようになる仕事です」と吉澤さん。81歳の今、自身の引退が近いことに触れ、後継ぎを見つけたい、と今後のふすま班への思いを語る。「日本ならではの文化なので、技術が途切れないようにしたいですね。ちゃんとした物を作れるように、培った技術を教えます。初めての人でも大丈夫ですよ」と未来の会員に呼び掛ける。
◆実習と実践で成長
事業団で、1年を通して特に多くの依頼を受けるのが「植木班」。昨年度は一般家庭や公共施設から、1700件を超える依頼があった。6人程度の活動班に分かれて、4メートル以下の植木の剪定(せんてい)などを請け負う。
◇リピーターも多数
10月下旬、吉峯(よしみね)達希さんが率いる活動班は、朝8時から真田の住宅で作業を進めていた。広い庭の植木を7人で分担。紅葉した、大きなハナミズキの木を担当した2人は、約3メートルの脚立を使ったり、直接木に登ったりして剪定していた。
「依頼はリピーターが多いです。みんな作業がうまいから、安心して依頼をもらえているのだと思います」と誇らしげに話す吉峯さん。「お客さんの要望に応えるのを第一に考えています。2回目以降の依頼は、植木一本一本を同じ人が担当します。私たちも『自分の担当だ』と、責任感が強まるんです」と続ける。
この日の依頼者は、10年以上前からのリピーター。「うちの庭木や依頼内容もよく分かってくれているので、安心して任せています。いつもきれいにしてもらえて助かっていますよ」と作業を進める吉峯さんらに笑顔を向けていた。
◇成果が分かる喜び
入会前はオフィスワークをしていた吉峯さん。65歳で入会して一から技術を学んだ。会員が一般家庭で仕事をできるのは、総合公園で約1年間の実習と安全教育を経てから。最初は全てを大変に感じたが、今では大好きな仕事だと話す。「植木班の仕事は、成果と自分の成長が、目に見えて分かるのでやりがいがあります。もっと早く始めたかったと思えるほど楽しい仕事です」と笑う。班員同士で腕が上がったことなどをほめ合い、現場はいつも和やかな雰囲気だ。入会して9年、班長を務める現在は、班員の安全にも気を遣う。「高所の作業になるので、足場の安全は大切です。天候や現場の状況を把握して、みんなが安全に仕事できるようにしています」。
年末は繁忙期。依頼者の笑顔のために、今日も植木班が市内各地で活躍している。
◆経験を生かせる新境地
事業団では、シルバー派遣という雇用形態で、企業などでも働ける。経験を生かした専門技術を要する作業や、スーパーでの品出しの他、介護施設の利用者の送迎など、派遣先・業務内容は多岐にわたる。
「本当に良い会社を紹介してもらいました」と話す鳥海幸一さんは、3年前から四之宮にある吉田ステンレス工業に派遣されている。鳥海さんは62歳で事業団に入会し、他の派遣先で15年間働いていた。しかし新型コロナの影響で派遣契約が終了。まだまだ働きたいと思い、自分で働き先を探しつつ、事業団にも相談したと言う。
そこで事業団から紹介されたのが現在の派遣先。入会以前の仕事だった、金属加工の技術が生かせる職場だった。「経験を生かせる所が見つかってうれしかったです。毎日仕事の内容が違うので、ぼうっとする時間がなくて充実しています」と満足げ。鳥海さんが派遣当初からしているのは、金属パーツの面取り(鋭利な角を削る)などの仕事。現在は仕事ぶりが認められ、新たに素材の切断も任されている。数ミリ単位でそろえる正確さが求められる仕事だ。「品質向上のために全力を尽くしています。自分が作った部品を次の工程で使うお客さまに、迷惑をかけてはいけませんからね」と仕事への姿勢を語る。誰よりも寸法がぴったり合うと、鳥海さんの仕事は職場でも評判だ。
◇初めての派遣利用
吉田ステンレス工業がシルバー派遣を利用するのは、鳥海さんが初。同社の田中勝義さんは、「鳥海さんの仕事は、安全で丁寧です。向上心がある方なので、新しい仕事も突き詰めて、正確に仕上げてくださいます」と評価する。技術力はもちろん、仕事に慣れているからこその周りへの心遣いに驚いたと言う。「お願いする前に、使わない場所をきれいにするなど、こちらが依頼したいことを理解して動いてくださるんです。仕事ぶりから優しさを感じます」と田中さん。職場には、鳥海さんが作成した、注意喚起のポップや作業を分かりやすく図解したマニュアルなどが貼られている。
「本当に助かっています。鳥海さんのように、安全に丁寧に仕事をしてくださる方がいれば、今後もぜひシルバー派遣を活用してみたいですね」
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