市では、人も猫も安心して暮らせる環境づくりとともに、野良猫の増加による生活環境の悪化を防ぐ取り組みを進めています。人と猫、お互いが幸せに暮らすための取り組みを紹介します。
◆外で暮らす猫の数を減らす 人のために、猫のために(平塚のら猫を減らす会)
「昨日までこの辺にいた猫が、今日はご飯を食べに来ていないんだって。今年は暑いから、バテてご飯を食べられなくて、弱っている猫も多いのよ」。7月上旬の市内某所。湿度の高い、じわりとした暑さの夕方。平塚のら猫を減らす会の会員が、額の汗をぬぐいます。猫の捕獲器に餌を入れて心配そうに周囲を見回しますが、猫の姿はありません。
この会員がしているのは、野良猫の繁殖を抑制するTNR(ティーエヌアール)という取り組みです。専用の捕獲器で猫を捕獲し(Trap(トラップ))、猫に不妊・去勢手術を受けさせて(Neuter(ニューター))、元いた場所に戻します(Return(リターン))。数時間かけて捕獲を試みましたが、この日は結局、野良猫は現れませんでした。
「ここの周りは餌やりをする人が多いから、早く捕まえて不妊・去勢手術をしないと猫がどんどん増えてしまうの」と、浮かない表情を浮かべる会員。「昨日捕まえた猫も、1歳になっていないのにおなかに赤ちゃんがいたのよ。外で生まれても、この暑さでは生き残れないよね……」。
◇コツコツ地道にTNR
市はTNRのサポートといった野良猫対策の取り組みを、平成26年から、平塚のら猫を減らす会と協働で進めています。同会理事長の小泉浩さんは、「野良猫による環境被害や、外で亡くなる不幸な猫を減らすには、TNRを地道に続けていくしかありません」と話します。同会が年間でTNRをする猫は200匹を超えます。1回のTNRを完了するのに最低で3日はかかるため、頻度は週に1度が限界です。捕獲できるまで数カ月、同じ現場に通い続けることもあるそうです。「捕獲が空振りに終わることもありますし、手術の前後に猫を保護する場所の確保も大変です」と、苦労を語ります。
同会は平成14年に発足しました。子猫や人間との生活に慣れやすそうな猫は、保護猫として、同会で里親を探すこともあります。38人いる会員の他にも、手術後の猫や保護猫を自宅で一時的に預かるボランティアや、子猫の世話をするミルクボランティアが協力しています。多くの人が関わり、猫の命をつないでいます。
◇解決に向け一緒に行動を
TNRをしていると、猫が苦手な人や猫に困っている人から「せっかく捕まえたのに、なぜ同じ場所に戻すんだ」と言われることが多々あるそうです。「自分の周りから猫がいなくなれば良いという考えではなく、野良猫の問題を地域全体の問題として捉えてほしい。解決に向けて、一緒に行動してほしいのです」と小泉さんは力を込めます。
「当会の目的は名前の通り『のら猫を減らす』ことです。TNRを手伝ってほしい方がいたら、いくらでも捕獲に協力します」と小泉さん。TNRをした後は地域の方々で合意形成をして、餌やりや野良猫トイレの設置などを進めてほしいと言います。「できれば、TNRをした猫は地域で暮らす『地域猫』として、寿命を全うするまで見守っていただけるとうれしいです」。これまでにも自治会の取り組みとして予算を立てて、地域猫の取り組みを進めた例もありました。
◇一生懸命生きる小さな命
小泉さんは「猫は生き物です。おなかがすけば餌を食べるし、食べれば排せつします。人間にとっては困った行動を取るように見えても、猫に罪はありません。一生懸命生きている、一つの命なのです」と訴えます。また、野良猫に餌やりをしている人には「餌をあげるのは本当に猫のためにしているのか、自分が満足するためにしているのかを考えてみませんか。餌やりをするなら、必ず不妊・去勢手術もセットでしましょう」と呼び掛けます。
餌がある場所に猫が集まり繁殖し、増え過ぎた猫が道路をうろつき交通事故に遭うことも。人間が良かれと思ってした餌やりの結果、猫が犠牲になってしまう現実もあります。人間が繁殖を管理し数を増やさないようにするのは、周辺地域への環境被害を防ぐためだけでなく、猫自身のためでもあるのです。
「当会では動物愛護の啓発活動などもしています。これからも不幸な猫を減らすために、活動を続けていきます」。
◆TNR(ティーエヌアール)の流れ
(1)Trap
猫を捕獲する
(2)Neuter
猫に不妊・去勢手術を受けさせる。手術をした目印に、耳にVブイ字または水平の切り込みを入れる。手術の麻酔が効いた状態で切るため、猫に痛みはない
「耳が桜の花びらの形に見えるから、V字カットをさくらカットと呼ぶこともあるよ」
(3)Return
手術後、元いた場所に猫を戻す
◆猫に餌をあげる人は
(1)今いる以上に野良猫を増やさないよう、必ず不妊・去勢手術をしましょう
(2)周囲の環境被害防止のため、餌やりをした後は餌の皿などを片付けましょう
(3)周囲へのふん尿被害を防ぐため、餌やりとセットでトイレを設置しましょう
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