江戸時代後期、箱根で誕生した箱根寄木細工。
箱根寄木細工には3つの技法がありますが、現代まできめ細やかな技と伝統を守り続けてきました。昭和59年(1984年)には通商産業大臣から伝統的工芸品の認定を受けており、国内のみならず海外からの人気も高い木工芸品です。
この特集では箱根寄木細工が抱える課題に触れ、町の取り組みを紹介していきます。
■箱根寄木細工のはじまり
始まりは約200年前。
当時宿場町であった「畑宿」で、石川仁兵衛(にへえ)氏が、木の種類が豊富な箱根の山の特性に着目し、色や木目の違うさまざまな「木」を寄せ合わせてお盆や箱を作ったことで箱根寄木細工が誕生しました。明治時代になると、複雑な寄木文様が考案され作られるようになりました。
また、発祥の地である畑宿は「寄木の里」とも呼ばれています。
■経済産業大臣 認定
3つの技法からなる箱根寄木細工は昭和59年に当時の通商産業省(現・経済産業省)から伝統的工芸品に認定されました。
全国には約1200品目もの伝統工芸が存在しますが、このうち認定を受けた伝統的工芸品は約240品目であり、その一つが箱根寄木細工です。このことからも、約200年守られ続けてきた技術の素晴らしさが分かります。
■3つの技法
◇「ズク技法」
さまざまな木の色合いを組み合わせて幾何学模様を作り出した種板をベースに特殊なカンナで薄く削り、0.15~0.2mmのシート状にする技法。これを小箱などに化粧材として貼っていく。この技術が箱根寄木細工の原点。
◇「ムク技法」
さまざまな木の色合いや風合いを組み合わせて模様を作り出した種板を、厚いまま加工する技法。種板を板状に切って組み合わせた葉書入れ・文庫などや、ろくろで削り出した菓子器類・お盆類・茶筒・ぐい吞み等があり、箱根駅伝の往路優勝トロフィーもこの技法で作られる。
◇「木象嵌(もくぞうがん)」
異なる色の天然木材を使い、絵画・風景・人物などの木画を「象(かたど)り嵌(は)める」技法。
・1枚ずつ糸鋸(いとのこ)ミシンで描いてから嵌める「挽き抜き象嵌」
・2枚同時に糸鋸ミシンで描いて嵌める「重ね式象嵌」この2つの技法に分けられる。
■Interview
箱根物産寄木工芸協同組合 理事長
小田原箱根伝統寄木協同組合 専務理事
箱根寄木細工伝統工芸士会 会長
石川一郎さん
箱根寄木細工の創始者である「石川仁兵衛(にへえ)」氏の血筋を引く「浜松屋」の店主。そして何より伝統工芸士の1人である、石川さんに箱根寄木細工や寄木の里・畑宿についてお聞きしました!
◇「ここが寄木の里・畑宿だと知ってほしい」
時代の流れもあり、職人が増えていくことは難しいと感じていますが、この寄木業界には比較的多くの若者が来てくれているので嬉しく思っています。
一方で、寄木の里・畑宿については、私が子どもの頃は15軒ほどの木工所があり、活気がありました。しかし、現在は、旧街道を抜け道として通り過ぎる事が多く、ここが畑宿だと認識されていないと感じます。ここが箱根寄木細工の発祥の地、畑宿であることをもっとアピールしていき、旧街道を通る方には、足を止めてお店に立ち寄ってほしいと思っています。
◇「ただのお土産ではなく、技術を広めたい。」
箱根寄木細工は多くの方が「お土産」というイメージを持っていると思います。寄木細工は様々な国にありますが、全てが木の色のみで表現され、薄く削る技術は箱根にしかありません。この洗練された技術が通商産業大臣に認められ、昭和59年に伝統的工芸品として認定されました。
これを機に、我々もただのお土産としてではなく、寄木会館を拠点に、様々な協力を得ながら、「技」に触れてもらうため、PRをたくさんしてきました。
◇「価値を理解してもらうことは難しい。」
ただ、箱根寄木細工は高価だとよく言われますが、他の伝統工芸業界の方からは「安いな」と心配されるほどよく言われています。一つの商品に費やしている時間や、駆使している技術などを理解してもらえないことには、高価だと感じて買ってもらうことができない。ただ、そこを理解してもらうことが難しい。
まずは職人の技術力や魅力を知ってもらうため、少しでも興味を持ってもらおうと、いつでも寄木の里である畑宿で作業しています。また、作業の様子も見えるので、ぜひ、足を運んでもらいたい。
◇「技術に触れてほしい」
町民の方は箱根寄木細工を購入する機会は少ないと思いますが、何か催しなどがある際には、記念品などで箱根寄木細工を選んでいただき、お土産としてではなく、国に指定されている「技術」に触れてほしいと思っています。
《町の取り組みについて》
石川さんのインタビューを通して、発祥の地である寄木の里・畑宿をもっと知ってほしいことや、箱根寄木細工の「技術」を理解してもらい、更なる魅力を伝えたい想いがわかりました。
次のページでは、こうした課題に対して、町の取り組みを見ていきましょう。
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