筑前三大放生会に数えられる若宮八幡宮放生会。
800年の歴史を持つこの祭り。
コロナ禍を経て、10月11日から3日間開催される。
しかし、「今回頑張らないと次がない」と、祭り関係者は強い危機感を抱いていた。
今月号は、祭りに関わる男たちが若宮八幡宮放生会への思いを語る。
■若宮八幡宮放生会
二年に一度開催される若宮八幡宮放生会、大名行列は、筑前三大放生会の一つとして古くから地域に根ざした伝統行事である。福岡市東区の筥崎宮放生会や宗像市宗像大社の田島放生会と並び、秋の到来を告げる風物詩として、これまで多くの観光客や地元住民を魅了してきた。
放生会では、裃(かみしも)をまとった人々が大名行列を組み、電飾が施された山笠がまちを練り歩く。電飾の光景はまさに幻想的で、夜のまちを彩る美しい瞬間である。祭りのクライマックスを迎えるお上りでは、男たちが息を切らしながら疾走する姿が、観衆の心を熱くする。三日間にわたるこの壮大な祭りのために、地元を離れて暮らす人たちも、この時期には故郷に戻り、地域との絆を深める。
しかし、令和2年、社会全体に新型コロナウイルスがまん延する、前代未聞の事態が発生した。この間二度にわたり、祭りの開催を断念せざるを得なかった。今回、六年ぶりの祭りの開催に、地域住民たちの喜びは計り知れない。山笠などの準備を通して、地域の連携が再び強まる様子が伺える。
一方、祭りが復活することで、新たな課題が浮き彫りとなった。特に顕著なのは、急速に進行する高齢化と、それに伴う人手不足である。かつては、地域住民が一丸となり、祭りの準備や運営に携わっていたが、若者の減少や高齢化が著しく進むことで、祭りの担い手が減少している。これにより、山笠の組み立てや運搬、準備など、祭り各所での作業が困難を極めている。
このような状況にも関わらず、地域住民たちは、伝統を守り抜こうとする強い意志は持ち続けている。特に、高齢者たちは、自身が培ってきた経験や知識を次世代に伝えるため、懸命に努力している。若者たちも、そんな姿を見て、故郷の大切さを再認識し、再び祭りに参加することで地域との絆を深めようとしている。
このように、若宮八幡宮放生会は、単なる祭りではなく、地域の絆を再確認し、未来へと繋げていく重大な役割を担っている。六年ぶりの開催となる今年の放生会は、どのような形で地域に新たな風を吹き込み、次の世代に引き継がれていくのか。
■若宮八幡宮放生会 大名行列
◇地域をつなぐ接着剤に
大名行列の歴史は古い。若宮八幡宮神幸祭の一部として江戸時代に始まったとされている。この大名行列は、市の無形民俗文化財に指定され、地域住民によって守り伝えられてきたのだ。しかし、今回の大名行列は、厳しい状況下で行われる。人手不足や資金調達が年々困難になっている中で、竹原地区の花田靖さんをはじめとする地元住民は、「今回頑張らないと次がない」という、強い危機感で準備に臨んでいる。
六年ぶりの開催となった今年は、参加者の多くが掛け声や動作を忘れており、準備が難航している。花田さんは「六年経てば、掛け声や動作を忘れてしまうのは仕方がない。それでも、続けていくためには、再び体に染み込ませるしかない」と語り、伝統の継承に対する強い意志を示していた。
この行事は単なる祭りではない。花田さんは、「新しくこの地域に住み始めた人たちにも声を掛けて、地域づくりの一環としてこの大名行列を続けていきたい」と語り、「この大名行列が地域をつなぐ『接着剤』としての役割を果たす事業として、後世にバトンタッチできれば」と、期待に胸をふくらませていた。
■若宮八幡宮放生会 福丸山笠
◇変わらない祭りへの思い
「福丸山笠は細部まで作りこまれている。当日はぜひ見てもらいたい」と話すのは、福丸山笠・盆踊り保存会の安永貴臣さん。人形師には博多山笠の製作者を迎え、地域の伝統を生かしつつ、新たなスタイルも取り入れている。
保存会には、市内外問わず加入することができる。安永さんは、「より多くの人々に参加してもらうためには、時代に合わせて変化していくことが必要」との考えも示しており、続けて、「近年、まわしやふんどしを敬遠する人が多く、それが保存会への参加をためらう一因となっている」と指摘する。「伝統を守ることも重要だが、受け継ぐ人がいることが最も大切で、受け継がれないと祭り自体が消失する可能性がある」と、危機感を募らせていた。
このような背景から、福丸山笠ではまわしやふんどしを廃止し、独自のスタイルに変更することを決定した。祭りを存続させるために『皆で考えた結果』であるという。「伝統のスタイルを廃止するのは断腸の思いだった。しかし、祭り自体がなくなることが、一番の問題。格好は変わるが、祭りへの思いは変わらない」と、話してくれた。
■若宮八幡宮放生会 若宮山笠
◇みんなで守ろう故郷の祭り
「年配者が多いので、山笠を引く人手不足などに陥っている」と話すのは、若宮山笠顧問の北崎勲さん。経験者が中心となって準備を進めているが、体力的な負担が大きく、若い世代の参加が急務だという。
「若宮山笠では、稚児による太鼓演奏を行っている。参加するのは小学一年生と幼稚園の年長児。しかし、例年に比べると参加者は少ない」。かつては三地区で行っていたが、現在は水原と金丸の二地区のみで人手を集めている。このため資金不足にも直面しているとのことだが、それでも地域住民の協力によって、祭りの準備は続けられている。
『みんなで守ろう故郷の祭り』という合言葉のもと、昔から山笠の台場作りに欠かせない葛(かずら)、竹、杉材などは、住民総出で調達し、組み立ててきたという。地域全体で手作りの伝統を次世代に引き継ごうとする意志が見受けられた瞬間だった。
北崎さんは最後に、「六年間のブランクは大きいが、協力してくれるみなさんに感謝している。祭りを通じて地域の絆を深め、これからも伝統を守っていきたい」と、話した。
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